月曜日更新なので、手短に。

 最近、どうも月曜更新になってしまう蔵間マリコです。
 月曜日ですが、しっかりきっかり更新しますよー。貧乏高校生の夏目大和と、ネコ耳宇宙人のデュタ、ミミとミューナとの共同生活を書いたオリジナルのSFファンタジーライトノベル『彼女たちの極秘事項(トップシークレット)』、略してカノゴクを。
 すいません、先日は小説家になろうのほうは更新できたのですが、本家のブログのほうは更新できなくて。今日はカツ丼を食えるほどの体が元気ですけど、昨日は頭痛と食欲減退で体がまとに動かないほどの重症でした。あんなに酷い状態になったのは、やはり体に疲れが蓄積していたのだろうか?ライトノベル執筆もブログ更新しないといけないけど、体調管理も注意しなければ。
 さて、前置きはこれぐらいにして、そろそろカノゴクの本編と入らせてもらいます。ブランとの死闘に勝利した大和、その一方で操舵室へと向かうブリジット・東雲。果たして、その先に待ち受けているものとは!?

第18話 東雲騒乱(クライシス)(7)

 操舵室の時計は午後10時45分、私の肉体は既に限界を超えていた。
 大丈夫だからと夏目大和の前ではやせ我慢をしていたが、実際は息をするのも辛い状態。壁に叩きつけられた時に肋骨が折れ、肺に突き刺さったのが感覚で理解できる。痛い以上に、呼吸が出来ない。今すぐにでも病院に行くか、ネクスに治してもらわないと命に関わる。
 それでも、私(わたくし)は諦めるわけにはいかなかった。
「残すは貴方だけになりましたわ、カファード星人のバルサ。今日こそ、年貢の納め時ですわ……」
 私は10m先の深い皺交じりの巨漢に対して、水銀製のカタナで中断の構えを取った。
 だが、構えを取るだけでも体力が確実に奪われていく。激痛と呼吸困難に加えて、水銀を安定させるのに必要な集中力。一太刀が限界だ。
 一方のテロリストのボスは、掌を私に対して向けている。多分、ビームか何かを発射できる機構を備えているのかもしれない。そうだとしたら、私は太刀打ちなどできない。
「よくここまで来たことを褒め称えよう。もっとも、お前は俺に殺されるがな」
「私も、この船の乗員も、東雲町も死にませんわ……」
 私とバルサの間に流れる緊張の空気。汗が流れる、息が乱れる、水銀が徐々に不安定になる。
「さては、どこか怪我をしているのだな? 顔を見たら分かるぞ」
 勘付かれていた。激痛を顔に出さないように努めていたが、隠しきれていなかったなんて。
「誤魔化し誤魔化し戦っているのだろうが、この俺には勝てんぞ。いや、地球人の分際で、この俺に勝てるはずもない」
「やってみないと分かりませんわ。貴方が思うほど、人間は脆弱ではありませんわ」
 そうは言ったものの、勝ち目の薄い戦いだということは頭の中では理解していた。このままでは、勝ち目があまりにも薄すぎる。
「では、試してみようか」
「ええ、試してみなさい。ゴキブリ野郎」
 私が言い切ったと同時に、眉根に皺を寄せたバルサは右手に光を収束し始めた。あと、数秒でビームだか、レーザーだか、ブラスターだかが放たれる。私はそれを避ける事ができるのだろうか?
 乱れた息を整え、痛みを一時的に遮断し、刀身に力を注ぐ。回避は直感に任せるのみ。
 この一撃で全てが決まる。
 生か死か、東雲町と地球の未来か破滅か。
「ゴキブリ野郎、貴方のことは絶対に許しませんわ!!」
「地球人のクソが!! 我々、カファード星人を楯突いたことを地獄で後悔しろ!!」
 全身全霊の力を籠めた私の一撃とバルサの邪悪なる一撃。
 攻撃が早かったのは、ゴキブリ野郎だった。
 放たれる全てを焼き尽くすビーム。私は避けようがなかった。やはり、無謀だったのか?
 いや、私は賭けに負けていなかった。
「ブリジット!!」
 操舵室の扉を開けて現れたのは、夏目大和。
 それと同時に放たれたプラズマ・ショックガンの雷。
「なにっ!?」
 バルサは驚愕した。ビームの斜線を大きく逸らされたからだ。
 プラズマ・ショックガンの衝撃で死の熱線は天を穿つ光の柱となり、星となった。
 私はその隙を逃さなかった。
 間合いまで全速力で飛び込み、私は妖刀で腹部を一閃した。
「なんだ、今の一撃は? 蚊でも刺した程度にしか痛くないぞ? それでも、本気だというのか!?」
「貴方の負けよ、ゴキブリ野郎」
「何が負けだ!? 俺のパララチウム製合金の体に傷一つ付けることなど……、なぁっ!?」
 ゴキブリ野郎は異変が気付いた時には、既に手遅れだった。
「何故だ!? 何故、俺の体がっ!?」
「関係ありませんわ。東雲家代々伝わる妖刀『白夜』の前に、硬さの意味なんて」
 斜めに袈裟斬りされたゴキブリ野郎の両腕は、無抵抗に地へと落ちた。そして、上半身と下半身は、ゆっくりとずり下がり、そして完全に分離した。切断面は、居合い抜きの特訓のものと変わらぬ、乱れ一つないものだった。
「ふぅーーっ……」
 私は息を吐くと共に残心を決めた。そして、そのまま崩れ落ちた。
「ブリジット、大丈夫か!?」
 生傷だらけの夏目大和が、急いで駆けつけてくれた。満身創痍だというのに気遣ってくれるなんて、あのアル・ビシニアンの男が期待をかけるだけある。
「え、ええ、少し疲れただけですわ」
「いや、違うな。ブリジット、お前はどこかを怪我しているだろ?」
「あ、貴方とは違って怪我なんてしていませんわ!! 東雲の次期当主として……」
「そういうことを言っている時は、間違いなく嘘を吐いているぞ」
「なっ!?」
「やっぱり、痩せ我慢をしていたか……」
 座席に座った夏目大和はとても深い溜息を吐いた。分かっていてもなお、それを誤魔化そうとしたことに対しての深い溜息だ。
「もしかして、カマをかけたというのかしら?」
「そうだ。お前はいっつも素直じゃないからな。壁に叩きつけられたというのに、無傷なわけがあるか」
 完全に私の心を見透かされていた。こんな一大事に弱みを見せるわけにはいかない、それなのに夏目大和に簡単に看破されてしまった。
 そうなった以上は、私も認めるしかなかった。
「そ、そうですわ。でも、私にはまだやるべきことがありますわ。それが東雲家次期当主としての……」
「次期当主とか言っている場合じゃないだろ。ブリジット、お前がやるべきことは横になって楽になること。それが一番重要だ」
「いや、それでも……」
「それでもなんででもない、とにかく休め。爆弾だって、デュタが全部解体しているだろうし、テロリストだって殲滅している頃だろ。お前が急ぐ必要はないじゃないか」
「……」
 言い返しようがなかった。余計に行動を取るよりも、ここで少しでも体力を回復させることのほうが迷惑をかけない。
 私は夏目大和と同じように座席にゆったりと腰掛けた。肋骨に激痛が走ったが、それでも立っているよりも楽だった。
「しかし、お前に助けられるとは思わなかったよ」
「何がですわ?」
「言っても信用してもらえないだろうけど、説教してくれてありがとう」
「私がいつ説教をしたのかしら? 変な人ですわ」
 私は痛みを堪えながらも笑った。本当に夏目大和は、面白い人ですわ。
「は、はははは……、これで終わったと思うのか? 愚かな地球人ども」
「なっ、何!?」
 私と夏目大和は振り向いた。
 そこには、真っ二つにされたのにも関わらず、不敵にも笑う老人がいた。
「何がおかしいのかしら、バルサ」
「この船がどこに向かっているか、分かるか?」
 私は暗闇に支配された海を眺めた。
 ハッキリとは見えないが、遠くから見えるのは東雲港ではなかった。見えたのは、東雲大学病院の崖だった。
「この船は、今から10分も経たないうちに、あの崖へと激突する」
「なんだって!?」
 衝撃が走った。まさかバルサが隠し玉を持っていたなんて。
「ふふふ、この船を止められると思うなよ。お前たちに操舵が出来ぬよう、壊させてもらった。もしもという時に備えてな」
「バルサ、貴方って奴は……」
 私は腸が煮えくり返るような思いだった。カファード星人バルサ、どこまでも卑怯で卑劣な奴。
 だが、バッドニュースはまだ続く。
『通信、繋がるか!?』
 声の主は、デュトナ・サイベリアスだった。その声には若干の焦りがあった。
「やっぱり、通信が繋がるようになったわね」
『もしかして、妨害電波の発生源を破壊したのか?』
「ええ、そんなところかしら。それよりもこちらもトラブルが発生しましたわ」
 私は、簡潔に今の状況を話した。それを聞くと、デュトナ・サイベリアスも用件を手短に話した。
『爆弾は12個解体した。だが、残りの1個が非常に複雑なプログラムで組み込まれている上に、動力源と直結している。どんなに急いでも、12分はかかりそうだ』
 操舵室の時計を確認した。10時46分、時限爆弾の爆発までにはギリギリ間に合いそうだ。しかし、その前に解体しなければ……。
『私と山田は、外部からの増援部隊を殲滅しました。私たちに出来ることはないでしょうか?』
「そうね……、山田は乗客をホールに退避させて、ネクスは私の元に来てくれないかしら」
『了解しました』
 通信が切れるや否や、バルサの嘲笑が聞こえた。
「ハハハハ!! ブリジット!! 貴様が地球に在住する宇宙人のデータを寄越さなかったから、こうなったんだ!! 財産の大半を叩(はた)いたが、これで貴様の死に顔を見ることができる。この勝負、俺の勝ち……」
「五月蝿いですすわ!!」
 私は残す力を振り絞り、白夜でバルサの首を刎ねた。
「お、おい!? 悪人と言っても、殺してもいいのか!?」
「大丈夫ですわ。カファード星人にとって、この体は外を歩くための巨大な装置にすぎませんわ。心臓部さえ破壊しなければ、死にはしませんわ。それに……」
 胴体の切断部分から、人間ならば誰もが忌み嫌う存在が這い出てきた。見た目は、ゴキブリそのもの。これがカファード星人の真の正体、遥か太古にゴキブリを地球に繁殖させた元凶であり、地球転覆を目論んだ悪魔である。
 逃げるカファード星人に私は即座に水銀を飛ばして、逃げ場を封じた。
「尋問ならいくらでも出来ますわ」
 私の足元にいるカファード星人は人語とは違う言葉を放った。何を言っているのかは分からないが、少なくとも怨嗟の言葉を撒き散らしていることだけは分かる。
 鬱陶しい声に耳を傾けず、私はカファード星人をゴミ箱に入っていたペットボトルに閉じ込めた。オーバーテクノロジーを駆使する宇宙人ではあるが、カファード星人自体は殆ど無力に近い。ペットボトルのふたを開けることすら出来ないほどに。
 これで敵性宇宙人を捕らえた。問題はこれからだ。
「とにかく、舵を取って、どうにかしないといけませんわ」
「操作の仕方はよく分からないが、とりあえずは動かしてみる。ブリジットは休んでおけ」
 そう言うと、大和は操舵輪を右に思いっきり回した。普通ならば、左に大きく旋回するはず。
 しかし、バルサの言うとおり、うんともすんともしなかった。
「クソッ、動かないぞ!! どうすればいいんだ!?」
 恐らく原因は、物理的なものの可能性が高い。プログラム的なものが原因ならば、予備の復旧プログラムで修正すればどうにかなるが、物理的に破壊されたのならば、それそのものを修復か交換するしかない。勿論、そんな時間などない。
 私は焦った。この最大の危機を脱することが出来るのか。直す方法がなくても、一時的でも操縦できるようにしなければ……。
 直す? 一時的?
 私はある案を思いついた。このアクアリーフの操舵能力を回復させる方法が。
 ただし、それは前代未聞の策だ。今までそのようなことをしたことはないし、出来る可能性も低い。
 それでも、私はそれに頼るしかなかった。今の状況打開するためには。
「思いつきましたわ、夏目大和」
「本当か!! どうやるんだ!?」
「まず、この水銀で偵察をして破損部位の確認を行いますわ。その後に、破損した部位を『錬成』して、破壊される前の状態に修復ですわ」
「れんせい? なんだかよく分からないが、何か難しいことを行うのか?」
「失伝した魔法を、何の情報もなく再現させるだけですわ。当然ながら、それなりにリスクは伴いますわ。下手をすれば、寿命を削ることだって有り得ますし、最悪、命を落とすことだって十分考えられますわ」
「それ、無茶苦茶だろ!! 全く知らない数式を教科書抜きで解くのとか、それどころじゃないだろ!!」
「夏目大和、例え成功率が0,1%であっても、私はここで戦わないといけませんわ。東雲家の義務や正義感だけでなく、私個人としての感情を納得させるためにも。そうでないと、私は一生後悔しますわ!!」
「それでも、他にも方法があるはずだろ!! だから、もう少し考えて……」
「それを考えている暇がありますかしら!? それが無いから、この選択肢を取っているだけですわ!!」
「……」
 感情的になった私の声に、夏目大和は沈黙した。熱くなりすぎたのは事実だが、それでもこれを引くわけにはいかない。
 ただ、成功率0,1%で済むのかすら怪しい状態だった。ヒント無しの手探りの状態に加え、満身創痍で体力の限界。0が幾つあっても足りないくらい。
 それでも、私は。
「私は今からそれを行いますわ。夏目大和は操舵輪を握って、面舵一杯に切ってくださいな」
「分かった……、俺はお前の言われたとおりのことをやる。絶対に無理をするなよ」
「分かっていますわ」
 そう言うと夏目大和は操舵輪を握り、事態に備えた。これで準備ができた。
「魔力の基礎たる水銀よ、私の写し身となれ!!」

 どうでしたか、今回のカノゴクは?
 次回の更新は体力がしっかり残っており、特に予定がない限りは日曜日更新予定。最大のピンチと直面したブリジット・東雲。彼女はこの無謀な挑戦にどう立ち向かうのか!?それは見てのお楽しみにということで。