ジョジョリオン

 町並みは大きく変わってしまった。
 しかし、それでもそこに住んでいる人たちの生活は変わらない…。

 牛たんミソ漬けを食べたい蔵間マリコです。
 ついに、始まりましたねえ~。単行本にして100巻超、来年で連載25年目、芸術的にも高く評価されているアドベンチャー漫画『ジョジョの奇妙な物語』PART8『ジョジョリオン』が。
 先月、ジョジョのパラレルワールドを描いたPART7『スティールボールラン』のラストを見たいがために、普段は買わないウルトラジャンプを買いましたが、今月も買いまして…。何しろ、ジョジョリオンの舞台はPART4『ダイヤモンドは砕けない』の舞台となったM県S市杜王町なんだから。ジョジョの中でも屈指の面白さを誇る作品がまた戻ってくる。第4部大好き人間としては、それを見届けなければ。という事で、今月も買いました。
 で、肝心の感想なのだが、これが衝撃の連続でして…。一つは、ジョジョの世界でも3月11日起きた東北地方太平洋沖地震が大きく反映されているという事だ。その影響で、S市紅葉区杜王町に甚大な被害を被っている。コレを在りのままと描いている作者の荒木飛呂彦氏の思い切った判断には驚かされたな。第4部でM県S市杜王町(そこの所は考慮してか、S市紅葉区杜王町に変更されている。)と表記されている限り、どうしてもそういった描写を描かざるえない。そうしなければ、作品そのものに嘘をついてしまう。だが、荒木氏はそれと真正面から向き合った。地震の被害にあった人たちが、そこから立ち上がるための物語として。地震の影響による、漫画・アニメ・ゲームの延期と中止が続く中、これは大きく評価したい。
 もう一つの衝撃的なことといえば、今月号の表紙を飾った歯抜けの謎の男。アレは、もう腹抱えて笑ってしまったわ。初登場シーンがかなり狂っているし、やりとりもそこはかとなく可笑しい。そのジョジョリオン一話目の極め付けが「その…下品なんですが…(以下略。)」、玉が4つ。棒が一つなのに、玉が4つ。それも、第一発見者の広瀬康穂(ひろせ やすほ)が真顔で独白しているからなあ…。確かに、普通じゃあ有り得んけど、表情がなんとも…。
 一話目からぶっ飛んだ展開で、なかなか面白かったわ、ジョジョリオン。やっぱり、杜王町の作品を描いている荒木飛呂彦氏は、活き活きしているな。

 しかし、地震の被害にあえど、相変わらず親近感が沸くな、杜王町って。
 杜王町が初めて登場したのは、上でも書いているように第4部。それ以前、それ以降の作品としては日本は第3部の最序盤で描かれたぐらいのと外伝作品数本で登場したぐらいで、それ以外はヨーロッパやアメリカといった海外を転々する物語となっている。そのため、バトルだの殺人だの何だの現実離れした描写がやりたい放題が出来る。敵も、世界征服や究極生物になるといった大それたものが多いしね。
 その一方、日本、それも杜王町を舞台とした作品は、その真逆のベクトルを進む。治安国家であるため、主人公サイドに殺人といった重犯罪を犯させるわけにはいかない。それどころか、下手にドンパチ行う事すら行う事が出来ない。スピードワゴン財団に任せて揉み消すのにも限界がある。そういった制約があるから、従来のジョジョで出来る事が出来ないのだ。ラスボスの吉良吉影の目的も、「植物のように静かに生きる」だからね。本当に、世界観がこぢんまりとしたものとなっている。
 だが、それ故に物語としての現実味や親近感といった魅力溢れる『日常系ジョジョが成立するのだ。ベビー用品店やパン屋、靴屋といった他愛も無い日常生活でのやり取りをはじめ、様々な情報交換や噂によって、大なり小なりの人間関係を作り、物語の確信へと繋がる。そこには、杜王町を愛する人たちの意思や願いが働いている。それこそが、杜王町を舞台とした作品の最大のウリであろう。
 そして、バトルも日常という世界観ならでは描き方が見事だ。ジャンケンやチンチロ、バイクチェイスといった少年誌的バトルもの(第7部の途中からは、青年誌だが。)からおおよそ離れたものがメインであるし、ガチンコにしてもあくまでも更正させたり、二度と悪さを出来ないようにするといった感じとなっている。そういったある程度距離感が近いものであるからこそ、奇妙なジョジョの世界観で現実的で日常的な物語が作れるのであろう。
 冒険と謳っている作品であるため、ある意味失格かもしれないが、作品としては評価が最も高いと言われている第3部と負けず劣らずの面白さを誇っている。それがジョジョ的箱庭世界、杜王町である。

 日常と非日常が交錯する町、杜王町。
 最早、日常の一つとして現実味を帯びている大地震の起きた杜王町で、果たしてどうやって復興を果たすのだろうか?現実の日本も、大地震で大きな傷跡を残した杜王町も一日でも早くしてくれる事を願いたい。