9月中旬完成を目標にしています。

 少しずつ執筆している蔵間マリコです。
 さてさて月曜日ですので、いつものコーナーを更新しますよ~。貧乏高校生の夏目大和と、ネコ耳宇宙人のデュタ、ミミとミューナとの共同生活を書いたオリジナルのライトノベル『彼女たちの極秘事項(トップシークレット)』を。
 いや~、第15話の進捗状況がまだまだですねえ。今週で10ページといまいち調子が乗っていない状態であります。しかしながら、モチベーションそのものは比較的高く、精神状態も安定。少しずつエンジンが温まってきましたし、なんとかノルマを達成できそうです。よし、可能な限り頑張るぞ!!
 とまあ、ちょっと意思表明をしましたが、そろそろ本編に入らせてもらいます。お世辞にも面白い内容ではないかもしれませんが、それでも読んでくれると非常にありがたいです。それでは、今回もどうぞ。
                  第14話 鋼の心臓(アイアン・ハート)(2)

 俺たちは再び1階の待合室へと移動した。
 時間は6時前、先ほどに比べると来客もかなり減り、待合室の椅子に座っているのは、俺たちを除くと両手で数えられるだけの人数しかいなかった。
「私の奢りだ。これを飲んで、ひとまず落ち着け」
 江草は、俺たち3人に冷たい緑茶の紙パックを渡した。200mlと少しせこい気がするが、タダで貰うからには文句は言えない。
 それよりも。
「一体全体何があるんですか!? 江草先生がアイの母親で、樹里って子の姉って。そもそも、アイが入学した理由って何ですか? 樹里って子が、俺たちに何の用があるんですか?」
「そうですよ。そのくらいは私たちに教えてもいいじゃないの」
「まあ、そのことだが、順を追って話す」
 そう言うと、江草は対面の椅子へと座った。
「まず、アイについてだ」
「もしかして、アイちゃんは江草先生の作った機械人形(オートマタ)なの?」
「ご名答。よぉく分かったな」
「分かったも何も、江草先生はロボット工学の第一権威者だってことぐらい私でも分かっていますよ」
「元ロボット工学の第一権威者というのが正しいがなぁ。だが、別にそんな肩書きどうでもいい」
 それは俺も知っていた。江草真来菜が、機械人形の革命的な技術で名のある賞やノーベル化学賞といったものを総ざらいした人物であることを。そんな偉人が、俺たちのクラスの教師であるのだから本来は感謝すべきことなのかもしれない。もっとも、その江草真来菜という人物の人格がとても褒められたものではないが。
「アイはな、私が17年前に私が作った機械人形(オートマタ)だ」
「えっ!? 俺たちと同い年なんですか!?」
「そうだ。もっとも、17年前は機械人形ではなく、趣味で作った擬似人格プログラムだったわけだがなぁ」
「それって、何歳の時に作ったんでしょうか?」
「確か、じゅ……、何を言わせてんだぁ、夏目。女性の年齢を聞くのはNGだぞ」
「あ、あははは……」
 どさくさに紛れて江草の年齢を聞こうと思ったが、失敗したか。
「まあ、なんだかんだあって擬似人格プログラムを機械人形(オートマタ)に搭載したのが、私の娘、アイというわけさ」
「だから、アイは江草のことを母さんと言うのか。ただ、どうして頭が取れるんだ? あれは、何か意味でも?」
「仕様だ。面白いと思ってな。昔、そんなアニメやゲームがあっただろ」
「はぁっ?」
 シンプルかつ、くだらない理由に思わず脱力してしまった。
「まあ、アイも困っていることだ。いずれ仕様を変更する予定だ」
「早く直してくださいよ」
 江草の性格が性格だけに、俺は釘を刺した。もっとも、それが受理されたかどうかは怪しいが。
「それともう一つ」
「?」
「デュタ、アイのことを親身に思ってくれてありがとう。お前がいなければ、アイはクラス内で孤立していたかもしれない。かといって、親である私も手助けするわけにはいかないからな」
「いや、私は親友としてただただ当たり前のことをしただけだ」
 デュタは僅かに微笑んだ。デュタも、アイと出会えたことにとても感謝をしているのだろう。
「さあて、アイのこたぁ大体話した。次は、樹里のことを話すか」
 いつの間にか若干前のめりになっていた江草は、姿勢を直して深く腰掛けた。
「樹里は私の親戚の子でな。少々いたずらが好きだが、元気で優しい子だった」
「だった?」
「そうだ。スポーツが大好きで、特にマラソンは陸上部の中学生に負けないほどの運動神経のいい子だった」
 先ほどまでは嬉々として話していた江草だったが、今はそうではなかった。どちらかというと、真剣そのものである。
「だが、5年前にクラブ活動中に突然倒れてな。一命を留めることはできたが、樹里が難病を抱えていることが分かった」
「難病? それは、一体」
「300万人に1人が罹るというなかなか厄介な病気でな、少しでも激しい運動をすると体に多大な負担が掛かるんだ。最悪、死に至る可能性だってある。だから、学校へ行くことはおろか、日常生活を送ることすら難しい」
 それがどのような痛みであるかは、本人でないために分からない。しかし、それでも相当な激痛と精神的苦痛であるということは理解できる。
「それ以来、樹里は病院で生活をしている」
「うっ、そうなんだ……。樹里ちゃん、可哀想……」
「そうか、そんなことがあったとは。あの少女も大変なものを背負っているな」
 そらは泣きながら疼き、デュタはまるで家族が不幸にあったような切なそうな表情をしていた。
「だが、どうして親戚であるはずの江草とアイが見舞いに行く必要があるんだ? こういうのは、両親や親友することだろ」
「樹里の両親は、共働きでなかなか見舞いに行く機会がない。あったとしても、週に1回程度だ。親友については昔は来たんだが、最近は疎遠になってな。だから、私とアイが代わりに見舞いをしている」
 そんな事情があるからこそ、親戚である江草と機械人形(オートマタ)のアイが見舞いに行っているわけか。十分すぎるくらいの理由だ。
「そして、ここからが本題であり、私からの頼みだ」
 江草からの頼み。大の大人がそんなことを言っているのだから、余程のことなのだろうか?
「夏目、デュトナ、星野。時間に余裕があれば、樹里の見舞いに行ってくれないか?」
「えっ!?」
 俺は反射的に声を出してしまった。
「実はな、樹里は手術の日が近いんだ。病気を治す手術が」
「樹里ちゃんの病気は治らないんじゃないの?」
「何を言っているんだ、そら。治療が困難とは言ったが、治らないとは言っていないぞ。医療技術の日々の進歩を舐めるのではない。もっとも、普通に生活ができるようになるまでは少々の時間と本人の頑張りが重要だがな」
 確かにそうだ。樹里は難病に罹ってはいるが、治らないとも言っていない。完全に早とちりである。俺も同じことを言いそうになったが。
「良かったぁ……、樹里ちゃんが元気になれるんだね」
 そらはホッと胸を撫で下ろした。
「だけど、それならば尚更見舞いに行く必要がないだろ。治るんだからさ」
「そのことだがな、手術の日が近づいているせいか樹里のストレスが酷くてな。だからそのストレス発散のためにも、手術の恐怖を取り除くためにも見舞いしてほしい」
「そう言われても……。見舞いのたびにいたずらを毎日毎日されたら、こっちの身が持たん。そんなの江草たちで済ませればいい話じゃないか」
「もし、見舞いをしてくれたら多少は成績に色目を付けてやってもやらんがなぁ」
「分かりました!! ぜひとも、その仕事をやらせてもらいます!!」
「大和くん……」
 ミューナも簡単に物に釣られるが、俺も同類だな。
「お姉ちゃん、お話終わった?」
「樹里か、何か用事でもあるのか?」
 動く歩道に乗って現れたのは、樹里とアイだ。
「うん、漫画雑誌が買いたかったから降りてきた」
「アイが代わりに買いにいってあげると言ったのですが、樹里ちゃんが言うこと聞かなかったのです」
 樹里はニコニコと笑い、アイはとても申し訳なさそうな顔だった。
「ねぇねぇ、大和さんだっけ?」
「なんだよ、さっき連呼していたじゃないか」
 俺は明らかさまな敵対心を振りまかせた。見舞いはするつもりだが、必要以上に関わりたいなどとは思っていない。
「さっき、本当にごめんね。大和さんが少しカッコいいと思ったから、悪戯しちゃいたくなって」
「お、煽(おだ)ててもなにもでないぞ!! 許すつもりもないから!!」
「でも、本当に本当に悪いと思っているからね!! ねっ?」
「むむむ……」
 どこか調子が良さそうな口ぶり。コロコロと言うことが変わるあたり、こいつの本質が分からない。かといって、このままだとどこか居心地の悪い気分だ。
「分かったよ……、カッコいい俺に免じて許してやるよ」
「ありがとね」
 樹里は年相応の女の子らしい笑顔を見せた。差し込む夕日が照りつけ、より一層に可愛らしい。いたずらさえしなければ、文句無しなのだが。
「じゃあ、反省の証に握手してあげる」
「握手? なんでわざわざ握手しないといけないんだよ?」
「えっ、駄目……」
 その途端、樹里の瞳に涙を浮かべた。
「なんで、泣くんだよ!! 俺はただ、握手したくないだけだからって……」
「大和くん、別に減るものじゃないからいいじゃないの」
「そうだ。それで仲良くできるのなら、とてもいいことじゃないか」
「夏目さん、アイからもお願いしますです」
「大和、そのくらいはいいだろ」
 4人の援護射撃。どうしてこうも、俺には味方がいない?
「わ、分かったよ。握手をすればいいんだろ、握手を」
「やったー!!」
 再び樹里は笑顔になった。本当に掴み所のない相手だ。
「はい、握手!!」
「はい……、うわぁっ!?」
 何かがすり抜ける感覚が俺に伝わった。同時に、俺は本日3度目の尻餅をついてしまった。
「いててて、何があったん……、うっぎゃああああああぁっ!?」
 俺は衝撃的光景を目の当たりにした。
 樹里の腕が千切れた。細くて白い腕が。
 てらてら赤く輝いた切断面からは真っ白な骨やピンク色の肉が露わとなり、リノリウムには鮮血の華が彩られる。
 それを見た俺は正気を保つことなど到底出来なかった。
「ぎゃああああああああああぁあああぁっ!!」
「きゃああああぁぁあああああぁっ!!」
「いやあああああああぁあああぁっ!!」
マンドラゴラさながらに、3人は絶叫した。
 そして、悲鳴が周囲へと伝播し、更なる被害を出した。
「一体、何が起きたんだ?」
「うっ、腕が転がっているわ!!」
「殺人事件でも起きたのか!?」
「早く警察を呼ばないと!!」
 騒然となる待合室。当たり前だ、俺が取り返しのつかないことをしたのだから。
 だけど、このままでは本当に大変なことになってしまう。どうにか弁解しないと。冷静にならないと、冷静にならないと。
「お、俺は、俺は何もしていない!! 俺が握手をしようとしたら、あの子の腕が突然外れただけでっ!! 俺は何もしていない、俺は何もしていないっ!!」
「大和、落ち着け!! 落ち着くんだ!! 冷静になれ!!」
「……」
 デュタが俺の肩を揺らして落ち着かせようとするが、当の本人も全く冷静ではなかった。そして、そらはショックのあまりにフリーズした。
 しかし、江草とアイだけは違った。
「はぁっ……、いい加減しろ、樹里」
「樹里ちゃん、みんなを驚かしたら駄目です」
 つかつかと血塗れになった樹里の前に歩み寄る2人。その顔は、呆れ顔に近い。
 大惨事が起きているのに、なんで2人は冷静でいられるのか。それは。
「やっぱり、真来菜お姉ちゃんにも、アイお姉ちゃんにも効かないかあ……」
 そう言うと、樹里は千切れた右腕から新たな右腕を生やした。まるでトカゲのように。
「ぎゃああああああああああああぁっ!! 腕が、腕が生えたぁっ!!」
「せ、地球(セラン)人は腕が再生するのかっ!?」
 俺とデュタは再び驚愕した。それも先ほど以上に。そして、そらは相変わらずフリーズしたままだ。
 それに対して、樹里はどこか醒めていた。
「はぁっ……、大和さん、デュタさん。冗談だよ、冗談」
「はへっ?」
 不覚にも俺は間抜けな声を漏らしてしまった。
「この腕は偽物だよ。玩具屋で売っているパーティーグッズ」
「ほ、本当なのか?」
「じゃあ、触ってみてよ」
 そういうと、樹里が俺に切断された右腕を渡した。
 それは驚くほどに精巧に作られた切断された腕のおもちゃだった。肉も骨も血管も切断面もしっかりと作られており、触ってみるまでは全く分からない。となると、この血液も血糊か何かだろうか?
「でも、こんなに驚くなんて大爆笑だよ」
「な、なんだよ……」
「でも、良かったな。本物の腕じゃなくて」
「当たり前だろ!! あ、あんなものが本物だったら、俺の人生台無しになっていたんだからな!!」
 パニックになっていた脳内も徐々に落ち着きを取り戻していた。それと同時に、精神的疲労が肉体を襲い、鉛のように重くなってしまった。回復するまでに少々の時間を要するであろう。
 しかし、その休みの暇すら与えてくれなかった。
「あっ、あの人です!! 凶悪殺人犯は!!」
「そうか!!」
 小走り駆けつける2名の警察官。その顔付きは、とても穏やかなものではない。
「午後6時15分、殺人の現行犯で逮捕する!!」
「えっ!?」
 警察官2人によって、素早く両手につけられた手錠。
「さっさとこっちへ来い!!」
「俺、何していないんだけど!!」
「しただろ!! 人の手が千切れたと聞いたぞ!!」
「それはただの悪戯で!!」
「言い訳は署で聞こうか」
「だから!!」
 俺は弁明したが、全く伝わらなかった。デュタたちも状況が飲み込めずに、どこかポカンとした表情だった。そらは未だにフリーズしている。
「お願いだ!! 誰か助けてくれーっ!!」
 俺はこの日初めて逮捕された。

 どうでしたか、今回の彼女たちの極秘事項(トップシークレット)は?今回は、前回の解答とも言える内容、江草真来菜が夏目大和たちをここに呼んだ理由と、樹里の悪戯を書きました。
 自分としてはこの場面で力を入れたのは、樹里の悪戯。前回の悪戯の内容が内容だっただけに、今回はその前回よりも驚く内容、それも周りに大きな影響を与えるレベルのものにしてみました。出来るだけ溜めを入れて、それをどのよう爆発させるのか。それが、今回の千切れた腕と血糊という答えが出ました。そして、更に二段オチを入れることによって想定外な展開になることを考えて、警察出動という酷いオチを入れてみました。ギャグをやるのなら、やはりこれぐらい派手にしないと。
 それとこの場面で江草とアイと樹里の関係性を明らかにしましたが、個人的にはもうちょっと自然に展開することが出来たんじゃなかったのかなあと少し後悔しております。これ自体の展開、元々から考えており、書く前は別に大丈夫だろうと思っていたんですよね。しかし、実際に書くと微妙に違和感というものを感じまして。結局これで通しましたが、どうにかならなかったのだろうかと考えているところであります。もうちょっと練れば良かったかなあ?

 苦戦しながらも楽しく書いているオリジナルのSFファンタジーライトノベル。
 さて、次回はいつもどおりに日曜日更新予定。担任の江草からとんでもない依頼を引き受けた大和たちだが、果たして守ることが出来るのだろうか?それは見てのお楽しみ。