また微妙になってきた……。

 物作りは、楽しさも苦しさも達成感も一緒くただと思う蔵間マリコです。
 さてさて日曜日ですので、いつものコーナーを更新しますよー。貧乏高校生の夏目大和と、ネコ耳宇宙人のデュタ、ミミとミューナとの共同生活を書いたオリジナルのSFファンタジーライトノベル『彼女たちの極秘事項(トップシークレット)』を。
 ちょっとヤバイです。今年も残す所、1ヶ月だというのに来月中に第16話が完成できるか怪しいです。いや、毎日最低でも2時間、休日は可能な限りはライトノベルにリソースを回してはいるのですが。ストーリーラインはあらかじめ決めているし、何がやりたいかもしっかり考えているんですけどねえ。これが思うようにいかないのが、ライトノベル執筆。イメージとずれたものができちゃって、本当に困って。う~ん、もうちょっとどうにかする方法が無いのやら。
 まあ、愚痴はこれぐらいにして、そろそろ本編へと入らせてもらいます。先に言っておきますが、お世辞にも上手な内容とは言えません。それでも読んでくれると非常にありがたいです。それでは、今回もどうぞ。
         第15話 機械人形(オートマタ)は人の夢を見るのか?(6)

 ラストスパートが始まった。
 捻挫をしていたはずの俺だが、なんとか走れるレベルにまで回復していた。まだ足の腫れは腫れていないし、体が熱いのは相変わらずだが、それでも完走するのには問題ないだろう。恐るべし、ネコ耳宇宙人の技術。
 その一方でアイの調子も悪くは無かった。全く歩くことができない状態だったのが、それを微塵と感じさせない。流石は生みの親、自分の娘のことはよく知っているものだ。
 そらと妙については、疲れを隠しきれていないものの、なんとか遅れないように頑張っている。俺がやるべきことなのに、わざわざ一緒に走ってくれるなんて。20分前まで1人で走っていた俺には、とても心強く勇気付けられる。
 デュタは、体力が全開であることは勿論のこと、人並み外れた身体能力を上手く生かして、ペースメーカーとして見事に機能している。きっとデュタがいなければ、ここまで調子良く走ることなどできなかったであろう。
 そして、担任の江草先生は。
「も、もう、だめ、腹が痛い……」
 3周を過ぎた時点で一杯一杯になっていた。
「いくらなんでも体力が無さすぎですよ」
「わ、わたしだって、若くないんだぁっ。と、年上をっ、少しは労われぃ……」
「喋るだけの体力があれば、十分ですね」
 俺は冗談を返したが、江草先生はそれに反応するだけの余裕すらなかった。徹夜で修理しているにしても、あまりにも体力が無さすぎる。
 夜も徐々に白け始め、小鳥のさえずりも聞こえ始め、新聞配達のバイクも走り始める。街もそろそろ活動し始める時間になるであろう。
「そら、妙、アイ。もう少しペースを上げることができるか?」
「わっ、私は何とか!!」
「大和さまの言うことなら何でも!!」
「はいです、アイは問題ないです」
 俺よりもやや後ろにいる3人は、走りながら首を縦に振った。
「そうか。デュタ、もう少しだけ速く走ってくれ」
「分かった。ただ、あまり無理をしないでほしい」
「そのくらい分かっているって」
 俺が返事を返すと同時に、デュタはギアを1段階ほど切り上げた。デュタから言わせてみれば、少しだけ駆け足になった程度であるが、俺から言わせて見ればギアチェンジそのものである。
「まっ、まってくれぇえええっ!!」
「江草先生が可哀想だが、本当にあれでいいのか?」
「気にするな、気にしたら負けだ」
 俺はバッサリと切り捨てた。群れから離れた仲間は見捨てる。それが野生で生きる上の掟。
 そんなくだらないことを考えていたが、やはり体力が限界を既に超えていた。徐々に走ること以外のことが考えられなくなるほどに余裕が無くなり、表情も険しいものへと変わっていく。痛みも少しずつぶり返してきた。
 ここまで来ると完全に気力との対決。ゴールまであと少しだ。ゴールさえすれば、ぐっすり眠ることができる。親友の願いを叶えることができる。
 体の悲鳴を抑え、残された体力と気力と精神力を振り絞る。あと少し、あと少し。
「あと1周で終わりだ!! みんな、頑張れ!!」
 息を全く乱さず、汗一つすら流さないデュタが気合付けの一言をかける。些細なことであるが、それが勇気になった。
 石段を一段一段踏みしめる。膝が笑っている、力がまともに入らない、少しでも油断をすれば滑ってしまう。そうなれば、お百度参りどころではないだろう。
 それでも、俺は石段を上り続けた。アイと樹里を助けるためにも。
 石畳の上を走る。いや、走るという言葉があまりにも不釣合いだ。両足はまるで足枷がついたかのように重たく、両腕はだらりとぶら下げ、前のめりになったまま歩みを進める。
 もし、このまま石畳でうつ伏せになって眠れるのなら、そのまま眠りたい。そのくらい俺の体は、疲労でピークを達している。
 それでも、俺は歩みを止めることなど無かった。アイと樹里を助けるためにも。
 ちらちらと見える誘惑と油断を避け、痛みと疲労を耐えに耐え。俺たちはついに、最後の本殿へと辿り着いた。
「ぜっ、ぜぇぜぇぜぇ……」
 デュタとアイを除いた俺たち4人は、息が切れ切れで声を出すことすらままならなかった。
 しかし、それをも我慢し、俺は振り絞るかのように吐いた。それも今まで以上に気合と願いを篭めて。
「神様、お願いします。如月樹里の病気を治して、心も元気になってくれますように」
 数秒間の沈黙が橘神社を支配した。聞こえるのは、枝の梢と風の音と雀のさえずりだけ。
 そして、瞑っていた目をゆっくりと開き、見回した。
「これで樹里ちゃんが元気になるね」
「この願いはきっと橘神社の守り神に届いていますわ。こんなに一生懸命になりましたから」
「私もそう思う。地球(セラン)の風習はよく分からないが、それでもこの労は報われるはずだ」
「こ、これで終わりか……。私はもう疲れた!!」
 皆が皆、達成感に包まれた表情だった。それを夜明けの光が照らしてくれるのだから、尚更に満足しているように見える。こんなに清清しい気分になったのは、久しぶりだ。
「皆さん、アイのためにわざわざこんな苦労をしてくれてありがとうです。どれだけ感謝しても足りないぐらいです」
「アイちゃん、そんなに泣かなくてもいいの」
「嬉しいのです、皆さんのように嬉しい時に涙を流せるなんてとても嬉しいのです」
「アイさま……」
 喜びながらボロボロと涙を流すアイ。機械耳とかそういったものを含めても、アイはとても人間らしく、少女らしく見えた。
 そして、俺はアイの感動的な光景を見て、緊張感が解け、達成感に満たされた。やはりここまで頑張った甲斐があったのだと。
 さて、これでひと段落が着いたし、そろそ……。
「あれ?」
 突如として襲う立ちくらみ、世界がぐるぐると回り、正常な思考が奪われる。
 そのまま数歩ほど下がろうとしたが、そこには足場がなかった。
「大和っ!!」
 デュタの大声がした。その瞬間、俺はデュタに抱えられていた。お姫様抱っこで。
「デュタさま、ナイスキャッチですわ!!」
「い、一体、何があったんだ?」
 俺は何があったのかを理解するのに数秒間かかった。そして、数秒後に疲労困憊で倒れたことに気がついた。
「大和、君はよく頑張った。今日は休みだから、もう無理をするな」
「そうだな、今日はゆっくりさせてもらうよ」
 もう意識が飛びそうで、このまま泥のように眠りたかった。眠らなければ、頭がおかしくなりそうだ。
 だが、これだけはデュタに言いたかった。
「でも、この格好は恥ずかしいから降ろしてくれないか?」
「なんでだ? 君のためを思ってのことだが?」
「こういうのは男が女にやるものだ」
 俺は眩暈を堪えながら、ゆっくりと本殿に座り込んだ。ああ、気持ち悪くて気持ち悪くて、眠たい。
「とにかくこれでお百度参りは終わりだな。俺はちょっとここで休んでから、家に帰るよ」
「皆さま、大和さま、お疲れ様でした」
「こんなに疲れたのは、初めてだよ……。もうクタクタ眠たいの……」
「私はもう退散するぞぉ……、頭がおかしくなる……」
 フラフラと弱々しく飛ぶ蚊のように、おぼつかない足取りで解散をする百度参りに参加者たち。きっと心中俺と同じようなことを考えているのだろう。
 ただ、帰る準備をしていない者が2人いた。
 1人は居候のネコ耳宇宙人。
 もう1人は。
「アイ、ボーっと立っていないで帰るぞぉ……」
「お母さん、下で待ってくださいです」
「まだ用事でもあるのかぁ? 早く済ませろよ」
「はいです」
 アイがそう言うと、江草も完全に視界から消えていなくなった。
「それとデュタさん、アイは夏目さんと2人で話したいのです。ですから、ほんの少しの間だけ外してくれないですか?」
「私は別に構わぬが」
「ありがとうございますです!!」
 アイの感謝の言葉を背後に、3人に遅れてデュタも橘神社から消えていった。
 陽光がややきつくなり始めた橘神社に残されたのは、俺とアイとデュタ。2人を見ているのは、羽休めをする雀たちぐらいであろう。
「なんだ、アイ。もしかして、もう一仕事して欲しいなんて言わないよ? 親友だからといって、今の俺はもう限界だぞ」
「そうではないです」
「だったら、一体なんなんだよ? 疲れているんだから、あまり煩わせないでくれ」
 俺は俯きながら、アイの顔を見ずに語る。失礼ではあるが、それだけ俺は眠たくて眠たくてたまらない。ここで今すぐ眠たいぐらいだ。
「たった1つ、たった1つのお願いなのです……」
「お願い? なんだそりゃ?」
「アイの顔を見てくださいです」
「えっ? そんなことでいいのか?」
「はいです」
 俺は拍子抜けした。なにか驚くようなことを言うと思ったら、そんな願いとも言えないようなことを言うなんて。まあ、面倒臭いお願いより遥かに良いが。
 しかし、それは俺が想像していた以上に驚くお願いだった。
「分かったよ、これで……」
 俺は仰いだ瞬間、声に出ない衝撃を体験した。
「ん……」
 アイの唇が、俺の唇に触れたではないか。
 シリコンのような人工的な柔らかさではなく、人となんら変わりのない柔らかさ。
 血の通わぬ冷たい感触ではなく、穏やかなで優しくて温かみのある感触。
 ただの機械では有り得ない、偽りなどのないアイの籠められた想い。
 デュタのものとは違う、だけど紛れもないアイの接吻だ。
「ん……、はぁっ」
「はぁはぁ……」
 俺は疲弊しきった思考回路をフル稼働して、状況把握をした。
 疲れと眠気で限界の俺に、顔を見てほしいとお願いされた。だから、俺はアイの顔を見た。そした
ら、アイにキスをされた。どうしてだ、分からない。
 突然訪れた異常事態に答えの出せず混乱中。俺が何をしたというのだろうか?
「これがアイのお礼です、大和さん」
「え゛えええぇっ!?」
 ますますワケが分からなかった。お礼って、俺がどれだけ大層なことをしたのというのか?
 もしかして、今回のお百度参りが大層なことなのだろうか? 確かに1日でこんなに走ったことは今まで一度たりともないだろう。それでも、それがキスに値するとは思えない。
「機械人形(オートマタ)の言うことだから可笑しいかもしれないですけど、アイは大和さんのことが好きになったのかもしれないのです」
「どどど、どういうわけでしてっ!?」
 アイの顔は火照っていた。お百度参りをしたから、熱くて真っ赤になったわけではないことぐらい分かる。あの日の夜のデュタと同じだ。
「数時間前、大和さんに背中から支えられた時に検知したのです。バグとも思えない不思議な感情プログラムが生み出されたのです」
「もしかして、それは……」
「大和さんのことを考えると、思考プログラムに予期せぬ現象が起こるのです。心の底から熱くなるというか、ふわふわとした気持ちになるというのか、よく分からない感情なのです。アイの初めて感じる感覚なのです」
「それが恋というのか?」
「多分そうです。きっとアイは、大和さんに恋をしたのです」
「はぁ……」
 まさか機械人形(オートマタ)が俺に恋愛感情を抱くとは。嬉しくないというと嘘になるが、あまりにも意外すぎて飲み込むのに時間がかかりすぎる。
「そんな理由じゃあ駄目ですか? それとも、アイが機械人形だから駄目ですか?」
 やや前のめりになったアイは、潤んだ目で俺を見つめる。涙の粒が、俺の頬に落ちた。
 ああ、駄目だ。やはり、女の子の涙には勝てないし、アイの気持ちを無碍にするわけにもいかない。
「参ったよ……、お前の押しには負けたよ」
「それって、アイは大和さんのことを好きになってもいいということですか?」
「そうだ。それ以外に何があるって言うんだ」
 俺が諦め交じりの笑い顔を見せると、アイは嬉しさのあまりに更にボロボロと泣いた。
「嬉しいです……。アイはとても幸せ者です……。アイが機械人形(オートマタ)としてでなく、1人の女の子として見られる日が来るなんて、とてもとても……」
「おいおい、そんなに泣くなって。こんなところを誰かに見られたら、俺が泣かしたように思われるだろ」
「でも、泣かしたのは大和さんです」
「まあ、間違ってはいないんだがな……」
 俺は改めて知らされた。アイは機械人形(オートマタ)であるはずなのに、擬似人格プログラムが成すものなのに、人間となんら変わらない存在と接していることを。それも年相応の女の子と。
「でも、アイも分かっています。大和さんに好きな人がいることをです」
「い、いや、俺は別に好きな子がいるとか……」
「だから、アイは大和さんに迷惑をかけないように、みんなの前ではこのことは内緒にしますです。誰かを幸せにするのが機械人形(オートマタ)の役割なのに、誰かを悲しい顔にしたら意味がないです。これはアイと大和さんだけの極秘事項(トップシークレット)です」
「アイ……」
 少し前まで泣いていたはずのアイの顔は、晴れやかなものになっていた。清清しいまでに青空を照らし、心も明るくなる今日の陽光みたいに。
「大和さん、ありがとうです。アイ、今日という日は忘れないです」
「俺もこの達成感に満ちた日は、忘れない」
 俺はゆっくりと立ち上がった。全身が悲鳴を上げているはずなのに、充足感に満たされているためか、全く気にならない。
 しかし、アイはまだ満足しきっていなかった。
「大和さん、最後にもう一つお願いしてもいいですか?」
「さっき、お願いしたじゃないか。まだ頼みごとでもあるというのか」
「あの鳥居まで手を繋いで歩きたいのです。そらさんと同じように歩きたいのです」
「もしかして、俺が彼氏だからか?」
「はいです」
 アイは0,2秒で返答した。明らかに期待している反応だ。
 俺はそれを断るわけにはいかなかった。いや、とても断りようがなかった。
「分かったよ、あの鳥居までなら別にいいぞ」
「ありがとうです!!」
 そう言うと、アイは俺の手を握った。その手は、細く、柔らかく、温かく、優しい、恋する女の子の手そのものだった。

 どうでしたか、今回の彼女たちの極秘事項(トップシークレット)は?今回は、お百度参りの完遂とアイの告白を書きました。長い長い場面でありましたが、クライマックスだけに一番力を入れた部分だと思います。
 個人的に今回の場面でのターニングポイントは2つ。1つは、ラストパートの走者それぞれの状態。そらや妙は勿論のこと、デュタやアイで持ち上げる。そこから、真来菜で一気に落とす。所謂、三段オチというもの。基本的なことと言えば基本的なことかもしれないけど、やはりこういうのはしっかりとできないといけませんからねえ。特に、キャラクターの特徴や身体状態というものを掴んでいるかどうかで、出来が変わりますし。自分としては、下手なりに頑張ったと思います。
 それともう一つのターニングポイントは、アイの告白。ジャンルとしては、SFファンタジーとは書いていますけど、実際には恋愛要素も強めですからね。テンポとか、キャラクターの心情、雰囲気……。そういったものを注意しないといけない。
 特に、アイは人間とも宇宙人とも違う存在ですからね。だから、そういったところも意識しつつ、歳相応の純粋な女の子らしさを出さないといけないとなるとなかなか大変。ホント、ここは非常に苦労しましたよ。

 なかなか大変だけど、作り甲斐のあるオリジナルのライトノベル。
 次回は、用事が入らない限りは、いつものように日曜日更新予定。お百度参りの終わった大和たちだが、これでまだ全てが終わるわけではない。一体何が残されているというのか?それは、次回の見てのお楽しみ!!