少しずつながらも書いていますよー。

 グダグダにならないように頑張っている蔵間マリコです。
 さてさて日曜日ですので、いつものコーナーを更新しますよー。貧乏高校生の夏目大和と、ネコ耳宇宙人のデュタ、ミミとミューナとの共同生活を書いたオリジナルのSFファンタジーライトノベル『彼女たちの極秘事項(トップシークレット)』、略してカノゴクを。
 いや~、毎週更新しているこのコーナーですけど、更新量に比べて、第22話の執筆のスピードが負けているという情けない有様でございます。ただ、俺も情けないままではありません。少しでも面白いものを書くためのアイデアも湧き出し始めていますし、モチベーションもそれに伴い上がっているという感じです。完成は7月末を目指していますけど、それよりも少し早く完成できるように全力で頑張ります!!
 とまあ、前置きはこれぐらいにして、そろそろ本題へ入らせてもらいます。先に言っておきますが、お世辞にも上手な内容とは言えません。それでも読んでくれると非常に有難いです。
 それでは、今回のカノゴクをどうぞ。

第21話 帰郷(4)

「If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive. If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.」
「まさかリーディングまで完璧だとは……」
「ふにゃ~」
 私はただただ感心した。英語が得意と豪語をしていたが、まさかここまでできるなんて。
「どう、デュタさん? 私もしっかり勉強しているんだよ」
「これでは私が教えることなんて殆ど無いな」
「う~ん、でも、デュタさんのおかげでいつも以上に勉強が捗ったよ。学校の先生よりもとても分かりやすかったからね」
 冷房がほどほどに効いた部屋の中、歩美が返すようにニッコリと笑った。その笑顔を見れただけでも、私は勉強を教える甲斐があった。
「ねぇねぇ、デュタさん。ひと段落着いたんだし、ちょっとあれをしようよ?」
「あれとは?」
「昨日言ったじゃないですか~、女の子らしさを磨くって」
「そのことか。では、今度は私が教えてもらう番だな」
 結局あの後、寝るまでの間に女の子らしさというものを考えた。しかし、それがどういうことなのか皆目見当が付かなかった。
「ミミもべんきょうしたいにゃ!!」
「ミミちゃんにはちょっとはやいかな~? あと、10年ぐらい経ったら教えてあげるからね~」
「いやにゃ!! ミミもデュタといっしょにべんきょうしたいにゃ!!」
「我侭を言うのはダメだぞ、ミミ。歩美が困っているじゃないか」
「うにゃあ~……」
 とても残念そうな顔をするミミは、しょげながらも歩美の部屋から出て行った。少し可愛そうだが、歩美が教えられないと言っている以上は仕方がない。
「ごめんね、デュタさん。ミミちゃんを不機嫌にさせちゃって。でも、これはデュタさんだけにこっそり教えたくてね」
「そんなに極秘事項(トップシークレット)な話なのか? 盗聴でもされたら不味い話なのか?」
「大袈裟だなあ、デュタさん。重要と言っても、そんなに深刻な話じゃないよ」
 そう言うと、歩美は1冊の大学ノートを手渡した。
 大学ノートのタイトルは『可愛い女の子悩殺テクニック集』と書かれていた。
「のう……、さつ……?」
「そう、これに書いていることを一通りできるようになったら、兄貴もイチコロだよ」
「のうさつとか、いちころとかよく分からないが、大和と仲良くなれるのは確かなんだな」
「うん。例えば、ページ」
 歩美が大学ノートをペラペラめくると、そこには前屈みになった女性のスクラップ写真が数枚、そして一枚一枚に事細かに説明が書かれていた。
「た、例えば、これとかはこうやってやるんだよ」
 歩美は前屈みになって、両腕で胸を挟みながら前屈みになった。なんだか苦しそうな表情だ。
「こ、こうか?」
 私は歩美と全く同じ姿勢を取った。さほど苦しい姿勢ではない。
「そ、そう。この姿勢で物を拾ったり、相手の手を引っ張ったりすると好感度アップ間違いなしだよ」
「そうか。これで大和が私のことを好きになってくれるのか」
「ふぅ~……」
 歩美は姿勢を崩し、ぺたりと座り込んだ。
「やっぱり、私じゃああれは無理だなあ~。デュタさんがとっても羨ましいよ」
「別に私は特別なことをしたわけでは……」
「ご、ごめん、デュタさん。1階から麦茶かジュース持ってきてくれないかな? できれば、氷を入れてくれないかな? 喉が渇いちゃって」
「分かった」
 私は注文を聞くや否や、1階へと向かった。
「デュタさん、上手くいくかな?」

 地球(セラン)で生活を始めてから3ヵ月半経つが、まだまだ私の知らないことばかりで感心せざる得なかった。
 地球(セラン)では、親友との仲を深めるためにあのような習慣があるとは。それも、あれはただの一例に過ぎない。まだまだ覚えることが多そうだ。
「やっぱり、地球(セラン)は素晴らしい星だ。住む人たちも優しいし、ここをえら……、きゃあっ!?」
「うぉっ!?」
 曲がり角から現れた大和に対応することが出来ず、正面衝突をしてしまった。アル・ビシニアンたるもの、迂闊だ。
「だ、大丈夫か?」
「いや……」
 まさにこの瞬間だった、歩美が言っていたシチェーションというのは。
『そ、そう。この姿勢で物を拾ったり、相手の手を引っ張ったりすると好感度アップ間違いなしだよ』
 私は心の中で「よし」と決意し、挑戦した。
「突然出てきた私の不注意だ」
 私は手を差し伸べながら、胸を寄せて、手を差し伸べた。これで大和と仲が良くなれるはずだ。
 しかし、大和の反応は意外なものだった。
「……」
 大和は私から視線を逸らしていたのだ。
「もしかして、虫の居所が悪かったのか?」
「い、いや、そういうわけじゃなくて!!」
  大和は勢いよく立ち上がり、目線を天井に向けた。もしかして、蚊か蜘蛛の巣でも見つけたのだろうか?
「お、俺はまだ手伝いがあるからな!! だ、だから、あんまり惑わさないでくれよ!!」
「そ、それはどういうことなんだ、大和!! 私がやっぱり悪いのか!?」
 だが、大和は答えてくれなかった。
 何も言わずに、大和は寝室へと消えてしまった。
「大和、あんなに汗を掻いて大変そうだが、私も助けたほうがいいだろうか……」
 その時だった。
「うにゃあ~!!」
 1階からミミの驚きとも、歓喜ともつかない声が響いた。
 私はやや駆け足気味に階段を駆け下り、居間へと飛び込んだ。
「ミミ、なにかあったか!?」
「やったにゃあ~!!」
「まさか100が出るとは。これは生まれて初めて見た」
 ミミと大和の父を挟んだテーブルの間、格子状の正方形が書かれた木の板の上で、五角形の小さな木の板がとても器用に立っていた。
「いち、に、さん、ひゃくにゃ~っ!! かったにゃあ~!!」
 再び歓喜の叫び声をあげるミミ。どうやら、これが理由のようだ。
「ミミ、何をやっているんだ?」
「しょーぎにゃ」
 ショーギ? この木の板を使う地球(セラン)の何かだろうか?
「将棋は初めてか?」
「こういうのは初めてで……」
 大和の父は、小さな木の板を規則的に並べた。私もそれに倣い、全く同じように並べた。何故かは分からない、ただそれが正しいと思ったからだ。
「まず、これは『歩」だ。基本的には1マス前進することしか出来ないが、将棋においては最も重要な駒といっていい。これが相手の陣地にまで入ると『と金』となる。これは金将と同じく前、斜め前、左右、後ろの六方向に1マス移動することが可能となり、戦略の幅も広がる」
 『歩』と書かれた駒が裏返り、赤く書かれた『と』の字が現れる。それは小さいながらもどこか強者の風格を漂わせる。
「続いては『香車』だが……」
 それからは、将棋の教本とともに、大和のお父さんから将棋のルールを一通り教わった。
 駒の使い方に、勝利条件や敗北条件、将棋の戦略の諸々など……。私は、大和の父の説明にただただ食い入るように聞いた。アル・ビシニアンに、将棋のような文化、いやまともな娯楽すら存在しないからこそ、地球(セラン)の娯楽一つ一つが興味深く、感動を覚えるのだ。
「どうだ、まずは一局打ってみないか? 飛車角香車ぐらいは落としても構わぬぞ」
「ハンデは必要ない。私は、大和のお父さんと真剣勝負がしたいだけだ」
「そうか、君はとても筋の通った女性だ。では、私もそうさせてもらおう」
「デュタ、がんばるにゃ~!!」
 私と大和のお父さんは駒を並べ、早速一局始めた。
 初めての将棋なので何とも言えないが、大和のお父さんの将棋はなかなか堅牢なものだった。大和のお父さんが説明には、穴熊囲いと呼ばれる基本的な守りの型らしい。王を角に寄せて、片面の駒を総動員して守りに徹する。今では研究され尽くされたため、使用者はあまり多くないらしいが、それでも上手な者が使えば、何者も寄せ付けぬ圧倒的な防御力を誇るのが穴熊囲いの強みのようだ。
 一方の私は、教本に書かれていた早石田という戦術で攻め立てた。早石田は、江戸時代と呼ばれる日本の時代に石田検校という名の棋士が生んだ戦術らしい。最大の特徴は攻撃に特化したという点。7六歩と7五歩からの二手で、角行、飛車、銀将、歩の四種類の駒を用いて、速攻戦法を仕掛ける。いかにも私の性格にあった打ち方だ。
「初めての将棋で早石田を使うとは、随分と思い切ったことをしたな。こんな打ち方をする人は初めて見た」
「先手必勝、これが私に一番似合っている」
「そうか。とても気丈な性格が現れている」
 大和のお父さんがここに来て、手持ちの銀将で守りを固めた。
「ところでデュタさん、どうだね?」
「?」
「私の息子の大和だ。あいつは、迷惑をかけていないか?」
 ここに来て初めて大和のことを話してくれた。
「いえ、我わ……、私たちをホームステイさせてくれた大和には感謝してもし足りないぐらいだ。寧ろ、私たちのほうが迷惑をかけているかもしれない」
「大和が……、そういうことか」
 大和のお父さんが僅かに微笑んだ。その一方で、大和のお父さんの布陣は僅かながらだが、乱れ始めた。
「そう言えば、大和のお父さんはどうして大和と仲が悪いんだ?」
 逆に質問をした。大和のお父さんが私に大和の質問をした以上、私にも質問をする権利があるはずだ。
「別に私は大和のことが嫌いではない」
 意外だった。
 家に帰ってから一言しか声をかけていないのに、嫌いではない。親子というものは、そういう関係なのだろうか? 生まれてから両親と一度たりとも出会ったことのない私には、よく分からないことだ。
「ただ、父親としてどうやってコミュニケーションを取ればいいのか分からないだけだ」
「父親として……」
「昔の大和は、何か始める時に私にこれがしたいと言っていた。野球に、サッカー、そしてこの将棋もだ。その都度私は、一緒に練習をしたり、色々と用意してきた。その時の息子の顔は、とても輝かしかった」
 それはまるで、昔を懐かしむような言い方だった。トーンこそ低いものの、どこか丸く、そして温かみのある声だ。
「それが中学生になってからはそうではなくなった。だんだんと私のことを嫌がるようになった。所謂、反抗期というものか。中学三年生の頃になると、この家から出たいから東雲学園の高校受験を受けて、家出同然に出た」
「大和にもそういうことがあったのか……。大和のお父さんの苦労は、相当なものだっただろうな」
「だが、私にもそういう時期があった」
「そうなのか?」
「そうだ。それも息子よりも荒れていた」
 大和のお父さんは、自分自身の若かりし頃を語った。
 かつては陸上の選手を目指していたらしく、中学の県大会でも優勝するほどの有望選手だったらしい。そのため県外の実力校に推薦していたようだ。
 しかし、その頃から足の腱を痛めていたらしく、両親は将来のことを心配して猛反対していたようだ。大和のお父さんはそれを跳ね除けて、実力校に進学し、県大会で腱を切ってしまった。
 幸い、歩ける程度には回復したようだが、陸上選手としての道は断たれた。その頃の大和のお父さんはかなり荒れていたようだ。
 その荒れていた時期に出会ったのが、大和のお母さんのだったそうだ。
「だから、大和には私と同じような道を辿ってほしくないのだ。怪我で挫折するということはないが、それでもこの3年間で何も得ずに帰ってきたら、私と同じように荒れるかもしれない。それならば、私は地元の高校に進学して、足元に地のついた仕事に就職してほしいと親心から願ったのだが。血は争えないものだな」
「心から大和のことを心配しているんだな。でも、大和のことは問題ないと思う」
「そうだにゃ!!」
 大和のお父さんの駒を進める手が止まった。終盤戦、ここで一手でも誤れば、即投了に繋がってしまう。
「私たちが出会う以前の大和のことはよく分からない。だけど、この3ヶ月半で別人のように変わった。ここまで見所がある人間を見たのは、初めてだ」
「そういうことか。そうだとしたら、息子のことを理解しきれていなかったということか。親の心子知らずとは言うが、子の心親知らずでもあるというわけか」
 大和のお父さんは厳つい顔で、不器用に笑った。きっと、息子のことで喜んだのは久しぶりなのかもしれない。
「きっと、大和もお父さんのことを理解しきれていないと思う」
「確かにそうだな。私も息子にこの話は一度も話したことはないからな。きっとこのことは知らないだろう」
「どうして話さないんだ? 別に困る話でもないのでは?」
「親としての威厳に関わる。親というのはそういうものだ。だから、今日話したことは息子には秘密にしてくれ」
「大和のお父さんが言うなら、それで」
「ミミ、やくそくはぜったいにまもるにゃ!!」
 私もミミもにっこりと返事をした。
「ところで、これでいいのだろうか?」
「なにがね?」
「3四桂馬王手」
「しまった……」
「にゃったー!! デュタがかったニャー!!」
 これからどの手で逃げても攻めても駄目、これを将棋の用語で言うところの詰みというのだろうか?
「はははは、まさかここまで強いとは……。本当は将棋経験者ではないのか?」
「いえ、今日が初めてだ。ただ、この駒を動かせば、勝てるのかなと思って打っただけに過ぎない」
 実際、そうだった。将棋の教本を読んで、一通りのことを熟知した。どの手の時はどのように対処すればいいのか、どこを攻めたら崩せるのか。思いの外、シンプルかつ奥が深い娯楽である。
「凄いねえ、デュタさんは」
 いつの間にか、歩美が私と大和のお父さんの対局を観戦していた。
「いつから見ていた?」
「今。デュタさんがなかなか上がってこないからね、だから私から降りた」
 歩美は冷蔵庫で冷えた麦茶をちびちびと飲みながら語った。
「そうだった。すっかり将棋に夢中になってしまった」
「ま、私はいいけど。それにしても、親父に将棋で勝つなんて驚きだねえ。ネット将棋でも上位に入っているのに。きっとデュタさんがオンライン対戦したら、もっといいところまでいくと思うよ」
「そうか? だったら、私もそのネット将棋とやらを始めてみようか」
「うん、きっとそれがい……」
「お、おじゃましますっ!!」
 突然、息を切らしたそらが訪問してきた。
 その姿は、服も、髪の毛も乱れており、なにか事件にでも巻き込まれたよう慌てぶりだ。
「そらー!!」
「そんなに慌てて、何があったんだ?」
「ちょっ、ちょっと朝起きるのが遅くなっちゃったの。今日は大和君と一緒にプラネタリウムを観に行く予定があったし。大和くんはどこなの!?」
「や、大和なら2階だが……」
 そらの鬼気迫る顔に、私は若干引いた。ここまで大慌てなそらを見るのは初めてだ。
「そ、そうなのね!!」
 そう言うと、そらは大急ぎで2階へと駆け上がった。
 そして。
「や、大和くん、今からプラネタリウム観に行くよ!!」
「な、何でいきなりそんな話を……」
「昨日、言ったじゃないの!! 明日も遊びに行くって!!」
「確かに言ったけどさ、家の用事があるし……」
「そらちゃん、大和なら連れて行ってもいいよ。夏休みなんだから、思いっきり遊びなさいよ。幼馴染みなんでしょ」
「な、なんでっ!?」
「急いで風呂入って、着替えて!! 汗まみれのままじゃあ、出掛けられないよ!!」
「うぎゃあああああああぁっ!?」
 そらが怒涛の勢いで大和を無理矢理引っ張りながら階段を下りて、そのまま浴室へと放り投げた。こんなにテンションの高いそらを見たのは初めてだ。
「大和も大変そうだな……」
「にゃまと……」
「兄貴のことならどうにでもなるでしょ。それよりも」
 歩美が一枚のチラシを見せた。
 着物に似た服装をした大人や子供たちが、風船や綿菓子を持ちながらなにやら満喫している雰囲気だ。
「串田……夏祭り……? なんだそれは? ここならではの風習か?」
「そんなところかな?」
 歩美の言葉は、どこか含みありげだった。

 どうでしたか、今回のカノゴクは?
 次回の更新は、特に予定がなければ日曜日更新の予定。色々と騒がしい夏休みになっている大和たちだが、意外なことが起きて……。何が起きたかは、読んでのお楽しみにということで。