新年一発目も行っていこー!!

 今年も彼極(カノゴク)を更新しまくる予定の蔵間マリコです。
 さてさて日曜日ですので、いつものコーナーを更新しますよー。貧乏高校生の夏目大和と、ネコ耳宇宙人のデュタ、ミミとミューナとの共同生活を書いたオリジナルのSFファンタジーライトノベル『彼女たちの極秘事項(トップシークレット)』を。
 2016年最初の彼極、新入生の機械人形(オートマタ)の少女・アイと色々あって親友となり、 立て続けに襲い掛かる悲しい出来事をなんだかんだで乗り越え、マスターを喪い、失意のどん底に落ちた機械人形のさつきを助けた大和たち。さて、今週はどんな極秘事項(トップシークレット)が待ち受けているのだろうか?
 とまあ、今回は前回のおさらい風に書いてみました。個人的には、書いていて結構好感触ですねー。進捗状況みたいなネガティブな話題よりか、 明るいほうがいいですからね。ということで、来週からもこのノリでやりたいと思います。
 というわけで、今週の彼極、スタート!! 
          第15話 機械人形(オートマタ)は人の夢を見るのか?(9)

 チョコレートケーキ作りが始まった。
 足りない材料は地元のスーパーで買い足して、入手が難しいものは、妥協をしたり、代用して作ることにした。残りの足りないものは、大和さんと江草先生に買い物に出ている。
「板チョコ2種類に、薄力粉、卵、グラニュー糖、無塩バター、アンズジャム……。チョコレートケーキ1というものは、複雑なものだな」
「はい、厳密に言うとザッハトルテというオーストラリアのお菓子ですけど」
「この生姜は、もしかして隠し味なのでしょうか?」
「はい、そうです。本当なら天日干しした生姜を使うのが一番ですけど、今日はレンジで乾燥させた生姜を使います」
「だから、どこかで食べたことあるような味がしたのね」
「ええ、これはマスターのお気に入りですから」
「さつきさん、すごいです!!」
 私は、薄切りし終えた生姜の水気を取り、電子レンジに入れた。あっという間に、部屋内が生姜の匂いに満たされた。
「これはなかなかの力仕事だぜ」
「絶対に汗を隠し味にしないでよ。したら、そこのオーブンに入れて焼き殺す」
「俺がそんな汚ねえことするわけないだろ!! いや、これが妙ちゃんやデュタちゃんが食べてくれると思うのなら、それも悪くねえか」
「本当にやめて」
 筋肉が逞しい大和さんの親友、武士さんが程よい粘り気のあるチョコレートの生地をかき混ぜ終えた。混ぜすぎず、混ぜなさ過ぎず、ちょうどいい感じに混ぜられている。とても手馴れた手つき。
「よし、完成だぜ!!」
「こちらも完成しましたわ」
 武士さんに少し遅れて、ブロンドヘアーがとても綺麗な妙さんがメレンゲを完成させた。こちらもきめ細かく、まるで最上質なシャンプーの泡に仕上がっている。
「えーっと、これをどうするんだっけ?」
「メレンゲの4分の1をチョコレート生地に入れるのです。残りは混ぜ終えた後に入れるのです。そうじゃないとボサボサとチョコレートケーキになるのです」
「そうですね。それに加えて、天日干しした生姜の粉末を入れるのが、さつきオリジナルです」
「そ、そうだったぜ」
 ガルウイング形状の機械耳とセミロングへアーと黄色いリボンが可愛らしいアイさんは、的確に解説しつつ、生地を完成させる。普段から、お菓子を作っているのかもしれない。
「アイ先輩、凄いなあ。とっても本格的!!」
「いい匂いにゃあ~」
 アイさんの調理風景をしっかりと写真にする、後輩のリリィさん。とても元気に写真をとる姿は、周りが明るくなりそうなほどに生き生きしている。
「こんな感じでいいのか? シュークリームというものは、初めてだからよく分からないが」
「はい、これでOKですね」
 熱々のカスタードクリームとチョコクリームの入った鍋を前にして、全くものともしない少し小麦粉を被ったデュタさん。雰囲気からして、どこか頼もしさと優しさを感じる。きっとみんなから好かれているのかもしれない。
「シュークリームの皮が焼けたよ!! これでいいよね?」
「はい、ちゃんと膨らんでいますね。しっかり中も焼けていますよ」
 そらさんは、シュークリームの皮の出来にニッコリと笑った。その笑顔は、大和さんのために食べてほしいという想いが篭った笑顔だ。
「これで、冷やしたカスタードクリームを入れたら完成だね」
「ミミがやるにゃー、ミミがやるにゃー!!」
「はい、踏み台だよ、ミミィ。ボクと一緒に盛り付けようっか」
「うにゃ!!」
 小麦粉袋で小麦粉を被り、蕩けるような甘さと香りのカスタードクリームを顔に付けたミミちゃんが、ちっちゃな手で一生懸命にシュークリームの中身を入れる。その光景は、とても愛くるしい。
「よし、これでシュークリームは完成!!」
「チョコレートケーキも焼けましたわ」
「あとは、粗熱を取った生地を、さつきさんがチョコレートでコーティングして終わりだけど、大和くんたち遅いなあ。どこに行ったのかなあ?」
「すまない!! 遅くなった!!」
 慌てて現れたのは、大和さんだ。右手には、茶色のビニール袋を持っている。
「大和さん、お母さん、お帰りなさいです!!」
「にゃまと~!!」
「お兄ちゃん!! 言われたようにミミィを連れて喫茶店に来たけど、どこに行っていたの?」
「江草先生がな……」
「やはり、美味しいスイーツを食べるためには、飲み物には拘らないとなぁ」
 大和さんの後に現れたのは、江草先生。気のせいだろうか、白衣が少し乱れている。
「とは言っても、県を越えてまで買いに行く必要はないだろ。拘るにしても、大型スーパーでいいじゃないか」
「担任に逆らうとはぁ、いい度胸だ。通信簿がどうなっても知らんぞ」
「ごめんなさい」
 何かしらの弱みを握られて降参する大和さん。上手く生徒をコントロールする江草先生。その関係は、教師というよりも、年の離れた仲のいい先輩後輩にも見える。
「皆様、ご苦労様です。コーヒーと紅茶を淹れて、出来立てのシュークリームを堪能しましょう。私とアイさんは片付けをしますので」
 私は手早くコーヒーと紅茶の準備を済ませ、シュークリームを盛り付けた。
 そして、キッチンテーブルを囲んだ大和さんたちは感動していた。勿論、私も感動している。
「こりゃあ、凄いぜ」
「武士くん、いただきますは?」
「おっと、忘れていたぜ」
「それじゃあ、気を取り直して……」
「いただきまーす!!」
 熱々の出来立てシュークリームを堪能する大和さんたち。
「あっちぃ!!」
「大和くん、そんなに急がないの」
「初めてシュークリームというものを食べるが、美味という言葉が相応しいな」
「おいしいにゃあ!!」
「チョコレートクリームも美味しいね」
「ふむぅ、やはり甘いものには地獄のように熱くて黒いブラックコーヒーに限る」
「みんなで作ったお菓子は、格別に美味しいですね、大和さま」
 山盛りに盛られたシュークリームに、みんながみんな、これ以上にない笑顔で一杯となる。こんなに幸せな顔を見れることが、とても幸せだなんて。
「良かったです」
「何がでしょうか?」
「さつきさんの笑顔が見れたことです」
 一緒に調理器具洗いをしているアイさんは、私の顔を見ながら安堵とも微笑みともつかぬ顔をした。
「もし、あのままさつきさんが落ち込んでいたままだと、アイはとても悲しかったです。でも、みんなの声が届いて良かったです」
「はい、マスターに言われました。みんなを笑顔にしてくれって」
「それが一番なのです。アイも悲しいことや辛いことが一杯ありましたです。でも、それを乗り越えたらきっとまた楽しいことや嬉しいことがたくさんあるのです。止まない雨はない、です」
「そうですね」
 私は微笑み返した。正十郎さんに出会えたこともとても幸せだったが、アイさんたちと出会えたこともそれと同じくらいに幸せなことだった。
「それにこんなにとっても美味しいお菓子が作れるのなら、きっと多くの人を笑顔にできますです。パティシェ顔負けです」
「そ、そうでしょうか?」
「そうです。さつきさんの作るお菓子は、世界一美味しくて、世界一幸せにすることができるお菓子です。それを多くの人に食べてもらうことをさつきさんのマスターさんもそれを望んでいるです」
 アイさんは、まるで正十郎さんの気持ちを隅から隅まで汲み取っているかのようだった。それと同時に、私は安らぎとも安心感とも言える感情を沸き立った。本当にアイさんは、みんなから慕われる機械人形(オートマタ)というのも分かる。
「ごちそうさまにゃあ!!」
 ミミさんの元気で可愛い声が聞こえた。そろそろ仕上げの準備をしないと。
「どうでしたか? シュークリームの味は?」
「とっても美味しかった!! こんなシュークリームを食べるのは初めて!!」
「とても上品な甘さとバニラの香りが漂う美味でしたわ」
 良かった、みんなが笑顔になってくれて。きっと私は、みんなを笑顔にするために、みんなの笑顔を見るために作られたのかもしれない。
「あとはチョコレートをコーティングすれば、ザッハトルテの完成。もうひと頑張りしましょう!!」
 今日はとても思い出に残る一日だ。正十郎さんと歩んできた人生に負けないくらいの輝かしくて、かけがえのない思い出。この思い出は、最期の日を迎えるまで大切にしていきたい。

 どうでしたか、今回の彼極は?今回は、立ち直ったさつきと一緒にお菓子を作る光景を書きました。面白かったでしょうか?
 自分としては、今回の場面で一番力を入れたのは、さつきから見ての大和たちの印象。自分としては、この場面はじっくりと一人一人の描写に力を入れたかったんですよね。さつきがいかに立ち直って冷静になったかというのもこういうところで表現したかったし、登場人物の魅力というものを端的に描けますからね。
 あとは、お菓子作りの描写。やはり、チョコレートケーキを作って、樹里を救うという課題である以上、チョコレートケーキ作りの描写というのは重要ですからね。勿論、適当に書いたわけじゃないですよ。ちゃんと調べましたし、昔、チョコレートケーキを作ったことがありますし。生姜を隠し味に使うというのも、 しっかり調べましたし。
 ただ、個人的にはこの場面全体が間延びしすぎているから、丸々カットできるんじゃないかなあと思っているのも事実。次の場面に関係するので多くは言えませんけど、これをカットしたらかなりテンポが良くなるなあと今になって思っていたりして。まあ、失敗を重ねて覚えるしかないか。

  悩むことが多いけど、楽しく書いている彼極
 さて、次回はいつもどおり日曜日更新予定。チョコレートケーキを完成させた大和たちは、翌日、樹里の元へと行くが……。どうなったかは、それは見てのお楽しみということで。