少しずつゆっくりと。

 色々と想像しながら、世界を創造している蔵間マリコです。
 さてと日曜日ですので、いつものコーナーを更新しますよー。貧乏高校生の夏目大和と、ネコ耳宇宙人のデュタ、ミミとミューナとの共同生活を書いたオリジナルのSFファンタジーライトノベル『彼女たちの極秘事項(トップシークレット)』を。
 さあさあやってまいりました、今週のカノゴクが。前回、機械人形(オートマタ)のさつきからのプレゼントと別れを告げた大和たち。これでアイも、江草も、樹里も、さつきも悩みを解消して万事解決!!これでようやく大和たちも平穏な日常を送ることができる。しかし、この話にはまだ続きがあった。さて、その次とは一体何か!?さあ、今回も行ってみよー!!
 と、柄になくテンションが高くなってしまいました。気を取り直して、そろそろ本編へと入らせてもらいます。相変わらず残念な文章と内容かもしれませんが、読んでくれると非常にありがたいです。そして、感想を書いてくれるともっと嬉しいです。
 それでは、今回のカノゴクをどうぞ。 
 
          第15話 機械人形(オートマタ)は人の夢を見るのか?(12)

 あれから1週間。
 俺たちは、江草先生の依頼を受ける前のなんら変わりのない生活を過ごしていた。
 いつものように勉強をして、いつものように親友とともに食事を取り、いつものようにバイトをする。今までと同じように程々に退屈で、程々に愉快な日々だ。
 ただ、変わったことが2つあった。
 1つは、週に1回、樹里の見舞いに行くようになったこと。
 まだ完全に手術した縫い目が完全に繋がっておらず、しばらくはベッドで生活する必要があるようだ。
 それから少しずつリハビリをし、日常生活に徐々に慣らし、学校生活へと戻り、昔みたいにマラソンが出来るようになるまで体力をつける。それがどれだけの時間がかかるかわからないし、どれだけの困難が待ち構えているのかは分からない。
 だが、樹里は悲観的ではなかった。それどころか、奮起に燃えていた。きっと俺たちの頑張りと、両親の愛情と、さつきさんのチョコレートケーキの結実に違いない。もっとも、俺に対する悪戯はエスカレートしてしまったが。いくらなんでも、氷水の入ったたらいを頭の上に降らさないでほしい。
 もう1つは、さつきさんがいなくなったこと。
 翌日、俺たちは純喫茶さつきへと行ったが、閉店の張り紙が貼られており、ガラス越しから見える店内は綺麗さっぱり物がなくなり、生活観が感じられない店内になっていた。少し前まで2人で仲良く経営していたのが、嘘のようだ。
 加えて、さつきさんからの連絡は未だに無い。ひと段落着いたら、俺たちに連絡すると思っていたが、留守番電話すら入ってこない。まだ手続きが続いているのだろうか?  あるいは、電話をかけることすら出来ないほどの多忙なのだろうか? どちらにしても、少し不安だ。
 そして、俺たちは今、食堂のテーブル席に座り、いつもの面子であーだこーだと話している。
「はぁ、また食いたいぜ。さつきちゃんのザッハトルテをさ」
「そうだね、あんなに美味しいチョコレートケーキを食べたのは、初めてだよ」
「ああ、あのような美味はアル・ビシニアンには無かった。ミミだけでなく、ミューナにも食べさてやりたいものだ。きっと喜ぶ」
「無いもの強請(ねだ)りをしても仕方ないだろ。それにアイが、この間作ってくれたじゃないか。全く同じレシピでさ」
「そりゃあ分かっているぜ。アイちゃんのもとんでもなく美味いこと分かっているぜ。でも、俺はさつきちゃんのザッハトルテも食べたいんだ」
「何だよ、そのミューナみたいな我侭は。運動部がそんなのたくさん食っていたら、太るぞ」
「大丈夫に決まっているじゃねえか。甘いものは別腹、すぐに燃焼されるさ」
「そうです、甘いものは別腹です」
「なんだそりゃあ」
 とはいうものの、俺もあのチョコレートケーキを食べたかったのは事実だった。程よい苦味、疲れが吹き飛ぶ甘さ、ピリッとした生姜の刺激感、ほのかなアプリコットジャムの酸っぱさ。あそこまで完璧に調和の取れたチョコレートケーキは、滅多にお目にかかることが出来ない。
「とりあえず、甘味談義はこれぐらいにして、いつもの買い出しジャンケンでもしようじゃねえか」
「いつものって、今までそんなのしたことないだろ」
「大和、つまらないこと言うなよな。ノリってもんだよ、ノリ」
 武士は退屈そうな顔でやれやれとポーズを取った。そんなことぐらい俺だって分かっている。
「とにかく、ジャンケンで負けた者2名が買い出しだ」
「そうだね。1人だと、みんなの分を運ぶことは出来ないからね」
「よーし、ジャンケン……」

 負けてしまった。
 グーで勝負すると思わせて、チョキを出すふりをして、パーを出したのだが、チョキを出されて負けてしまった。
「大和さん、ジャンケンに負けたのだから仕方ないのです。アイも負けたのだから、頑張りますです」
「そうだな、落ち込んでも仕方ないな」
 そうは言っても、食堂はいつも以上に長い列が出来ていた。普段ならば、購買のパンのコーナーなどにばらけたりするのだが、今日は食堂に一点集中しているようだ。購買のパンが入荷でもされていないのだろうか?
「大和さん、皆さんがいないのでちょっと聞きたいことがあるのです」
「なんだ? 込み入った話か?」
「どうして、デュタさんやミューナさん、ミミさんはネコの耳とネコの尻尾を生えているのですか? それに、ミミさんのお友達もイヌの耳が生えているのですか? 新しいアクセサリーなのですか?」
「ぶっ!?」
 突然の告白に、むせてしまった。まさか、アイが宇宙人の存在に気付いていたなんて。彼女宣言も目玉が飛び出そうなほどに驚いたというのに、これと同じくらいに驚くことが待ち構えていたなんて。
「な、なんで、それを……」
「先日のケーキ作りの時に気付いたのです。小麦粉を被ったのに、被っていない部分があったのです。気になったので、アイはネットで調べたり、色々考えたりしたのです。そしたら、そんな結論が出たのです」
「は、はぁ……」
 全く落ち度が無いというのに、アイにデュタたちの正体がバレるとは。どこから襤褸が出るか、予想がつかない。
「大和さんは、何か知っているのですか?」
「まあ、あれだな。かくかくしかじか……」
「えっ、うちゅ……!!」
 俺はアイの口を塞いだ。危うく公の場で明らかになりそうだった。
「アッ、アイ、それは極秘事項(トップシークレット)なんだ。だから、周りにばれたら、デュタたちは強制送還されるし、俺もエージェントに消されるんだ」
「えっ、エージェントですかっ!?」
 アイは周りに聞こえぬ程度に驚いた。少し大袈裟ではあるが、釘を刺しておかないと、もしもの時に大変なことになる。
「これはそらや妙も知っていることだが、注意してくれ。勿論、江草先生にもだ」
「ははは、はいっです!! アイ、口外しないです!!」
 効果は覿面だ。きっと、アイなら大丈夫だろう。
「おいっ、前が空いているぞ。買わないのなら、列から外れろよ」
「す、すみません!!」
「ごめんなさいです!!」
 身長が180cmはあると思われるスポーツ狩りの男子生徒に注意されてしまった。つい話に夢中になってしまった。
「いらっしゃい、今日はなんにするかい?」
「B定食、焼き魚定食、カツカレー丼大盛り、いなり寿司と山菜うどん、わかめ蕎麦」
「B定食、焼き魚定食、カツカレー丼大盛り、いなり寿司と山菜うどん、わかめ蕎麦ねぇ。食べ盛りだからって、食べすぎじゃないかい?」
「友人のも頼まれたんです」
「ははは、分かってるよ」
 目尻に皺の寄った食堂のおばちゃんは、気風良く笑う。いつものことだが、愛想がとてもいいおばちゃんである。
「B定食1、焼き魚定食1、カツ丼大盛り1、いなり寿司と山菜うどん1、わかめ蕎麦1」
「B定食1つ、焼き魚定食1つ、カツ丼大盛り1つ、いなり寿司と山菜うどん1つ、天麩羅蕎麦1つですね。分かりました!!」
 食堂のおばちゃんの声に呼応するかのように、調理場から若くて優しい声が響き渡る。
「もしかして、新しいバイトでも雇ったのでしょうか?」
「まぁ、そんなところかね。でも、料理の腕がとても立つし、性格もとてもいい子だよ。はい、合計1580円ね」
 俺は渡された小銭を財布から出した。小銭ばかりのため、少し時間がかかってしまった。
「毎度あり!!」
 食堂のおばちゃんの気持ちのいい声を後に、数m先の受け取り場へと。
「料理の腕が立つか……。私立東雲学園(うち)の食堂は、なかなか美味しいものばかりだが、あの食堂のおばちゃんが言うとはね」
「そんなに凄いなのですか?」
「ああ。ああ見えても、あの食堂のおばちゃんは、三ツ星レストランで20年間調理を任されたそうだ」
「驚きです!! そんな凄い人に褒められるなんて、どんな人なのか気になるのです!!」
 ここの食堂のおばちゃんが認めるほどの料理を作るなんて、どんな人なのだろうか? ぜひ拝みたいものだ。
 その願いはすぐに叶えられた。
「はい、B定食1、焼き魚定食1つに、カツカレー丼大盛り1つ、いなり寿司と山菜うどん1つ、わかめ蕎麦1ですね」
「ありがと……、これは?」
「サービスです」
 俺は注文して出来立てホカホカの料理が載ったトレーとは別のトレーを見た。甘美で魅惑的な香りを放つ黒い塊が6つ。
 そうだ、このチョコレートケーキはよく知っている。そして、このチョコレートケーキを作った者も。
「夏目さん、アイさん、こんにちは。私立東雲学園の食堂で働くことになりました、機械人形(オートマタ)のさつきです。改めてよろしくお願いします」

                              ※

 理科準備室。
 昼食のを食べ終えた私は、デザートのチョコレートケーキに着手した。
「これこれぇ!! 甘さ、苦味、酸っぱさ、辛さ。複雑に絡み合う味が渾然一体となって、最高の味の化学反応。美味い、美味すぎるぅっ!!」
 こんなに美味しいチョコレートケーキのために、頑張った甲斐があった。
 いや、正しくは機械人形(オートマタ)のさつきのためと言った方が正しいかもしれない。
 私が純喫茶さつきに訪問した翌日、理事長にさつきを食堂で働かせてもらうようにとから懇願した。メンテナンスやパーツの交換といったものは自らが責任を取る。だから、さつきをここで働かせて欲しいと。
 しかし、理事長もそれを受理するはずもなかった。元機械人形(オートマタ)科学者といえど、あまりにも突然すぎる話だからだ。
 それについては、私も想定内だった。だから、私はここで一つ目の切り札を使った。
 先日、作ったシュークリームを出したのだ。
 再び驚いた理事長は、それをすぐに食べるわけにもいかなかったが、せっかく出されたものを断るわけにいかず、渋々ながらも食した。
 その瞬間、あまりの美味さに理事長の顔は思わず綻んだ。当然だ、さつきのシュークリームよりも美味しいシュークリームを見つけるのは、ノーベル科学賞を取る以上に難しいと言ってもいい。
 ただ、シュークリーム1つで陥落するはずもなかった。味こそ好評したが、それで機械人形(オートマタ)を私立東雲学園で責任を持って働かせるわけにもいかない。そんなので納得でもしたら、周りにも示しがつくはずがない。
 そこで私はもう一つの切り札を切った。私立東雲学園のオーナーであり、私を教師として雇った東雲財閥の現当主、アイザック・東雲氏からの電話。
 アイザック氏からの突然の連絡に理事長は3度目の驚きをした。私立東雲学園では一番上の立場であるが、大財閥の当主からの指示ならば断るわけにもいかない。
 こうして、さつきは晴れて私立東雲学園の食堂で働くことになった。今日はその就任1日目だが、これまでに見たことがないほどの数の生徒で食堂がごった返していた。物珍しさというのもあるかもしれないが、それ以上に絶品料理を作るということで評判が評判を呼んでいるようだ。
 さつきも新しい居場所を得たことと、生徒たちの笑顔を見れることにとても満足している。私も、彼女が笑顔でいられることにとても満足している。
「しかし、夏目も変わったな」
 少し前の夏目大和ならば、ここまで熱くなることはなかった。どちらかというと、ケ・セラ・セラ、かなり漠然とした生き方をする人間だった。それが今では、何をするにも必死になれる人間となった。夢や希望、情熱といったエネルギッシュなものに満ち溢れている。まだまだ乗り越えるべき壁があるだろうが、今の夏目なら乗り越えることが出来るだろう。
 エネルギッシュといえば、あいつもそうだ。
 あくなき情熱と弛まない努力と貪欲なまでもの追求心を持った、私の後輩。今も機械人形(オートマタ)の技術者として一線を担っているとは聞くが、全くの音沙汰も無い。今はどこで何をしているのだろうか? 連絡の一つでも寄越せばいいのに。
 私は、チョコレートケーキの残り一欠けらを食べた。その味は、人生のように味わい深く、複雑極まりながらも至高とも言える味だった。

第15話 終わり 
 
 どうでしたか、今回の彼女たち極秘事項(トップシークレット)は?
 今回は第15話のエピロローグ、大和たちのその後を書きました。ベタな展開ではありますけど、自分としては色々と考えた次第でございます。
 さて、これで第13話から第15話続いた夢想編でしたが、自分としてはアンドロイド、機械人形(オートマタ)をこの作品に出しているのは、それなりに個人的な理由があります。まあ、この手の作品のテンプレとか、比較的簡単に少し先の未来という感じを出せるというのもありますけど、それ以上に理由が。
 ロボットとかアンドロイドというと、昔から人間が夢見た存在だった。今でこそ、それなりにロボットとか言われる存在があるけど、それでも未来予想図からまだまだ遠い。だからこそ、そこに夢やロマンがある。そして、そのロマンの塊が生活圏に根付いた存在にまで近づいていたら?それも外見だけではなく、精神や思考的な面も人間に限りなく近い存在として。そういったことを夢想しながら書きました。
 それと、ロボットやアンドロイドが夢の塊であるのなら、この作品のテーマの一つである夢にとてもマッチしていると思ったので、登場させたというのもある。イマイチ将来何を目指しているかが分からない、夢というものが持てない大和。それを夢の存在である宇宙人に、妖狐、そして機械人形(この世界では、少し当たり前になりつつあるが)といった出会い、様々なイベントやトラブルと遭遇して成長していく。夢を探しつつも。だから、その一環として機械人形はこの作品に適任だなと思い、登場させた所存であります。まあ、それが上手く噛み合っているかどうかは怪しいものですが。

 ひとまずひと段落の着いた彼女たちの極秘事項(トップシークレット)
 来週は、第13話から第15話までのまとめを作るということで、本編はいったんお休み。でも、来週もぜひ楽しみにしてください!!