今日はちょっと手短に。

 少しずつ執筆をしている蔵間マリコです。
 さてさて日曜日ですので、いつものコーナーを更新しますよー。貧乏高校生の夏目大和と、ネコ耳宇宙人のデュタ、ミミとミューナとの共同生活を書いたオリジナルのSFファンタジーライトノベル『彼女たちの極秘事項(トップシークレット)』、略してカノゴクを。
 本当なら前置きとか後書きを色々と書きたいのですが、今日はちょっと慌しいことがありましてね……。理由はツイッターに書いているくだらないことですけど。まあ、それに体力を使いまして。というわけで、先でも書いているように手短に済ませます。
 さて、前置きはこれぐらいにして、そろそろ本編へと入らせてもらいます。大和たちの身に降りかかる思いもかけぬ出来事。大和たちは立ちはだかる困難を乗り越えることができるのだろうか!?
 それでは今回のカノゴクをどうぞ。 

第18話 東雲騒乱(クライシス)(6)

 叩きつけられる巨大な両拳。普通ならば、俺とブリジットは真っ赤な大華が絨毯に彩られていたに違いない。
 だが、普通ではなかった。
「ブリジット……、それがお前の魔法なのか……?」
「そ、そうですわ……!!」
 ブランの両拳を留めていたもの、それは銀色に輝く刀状の刃だった。
 ただし、その刀はただの刀ではない。僅かに歪みながらも折れることのない刀身、滴り落ちる銀色の雫、そして刃から放たれるただならぬオーラ。これがブリジットの魔法というのか。
「くぅっ……!!」
 ブリジットは耐え切れず刀を筒に納め、転がり込んで回避をする。直後、両拳が床に炸裂した。
「こ、これは……」
 驚愕した。床には砲弾でも打ち込まれたかと思うような大穴が生み出されていた。ブランの馬鹿力も恐ろしいが、ブリジットはこれを支えていたとは……。
「ヤマト、奴の様子がおかしいのじゃ!!」
「ああ、分かっているって!!」
 アラートは表示されていないのに、突然、ブランが襲ってきた。これは一体どういうことだ?
「恐らく、カファード星人に洗脳させられたようですわ。恐らく、首筋に操甲虫が……」
「カファード星人? 操甲虫? もしかして、テロリストの首謀者か!!」
「ええ、そうですわ。現地の人間を利用したり、洗脳したりして、自らは悪事に手を染めない。この宇宙で誰よりも卑劣な種族でしてよ」
 ブリジットは再び銀の刃を晒し、ブランへと突撃を仕掛けた。
「少し痛いですけど、貴方にはここで眠ってもらいますわ!!」
 最短での行動、無駄のない洗練された一振り。決まれば、痛打どころではすまないだろう。
 しかし、相手は人外の強さを誇るブラン。人ならざる業を以ってしても決まらなかった。ブリジットの刃は宙を斬り、ブランは巨体を上手い具合に折り畳み飛び込み、襲い掛かってきた。無防備な俺とミューナを!!
「うわあああああああぁっ!!」
 俺は拳銃を引き抜こうとした。が、恐怖のあまりに引き抜くことができない。先ほどのテロリストとは相手が違う。相手は素手でコンクリート壁をぶち壊す怪物。それに撃ったとしても、前のようにバリアで防がれてしまうはずだ。
「面倒なことになりまして!!」
 ブリジットは振り返り、再び刃を振った。すると、今度は銀の刃が鞭のようにしなり、熱されたばかりの硝子細工のように伸びたではないか!?
「うがっ!?」
 銀の刃が右足に巻き付けられ、空中で動きを阻害されたブラン。それでも、ブランの暴威は止まらなかった。ブランは巻き付けられた右足を強引に蹴り上げたではないか!!
「まっ!? そん……」
 蹴りの勢いがブリジットにまで伝わり、そのまま壁に叩きつけられ、力なく床に転がり落ちた。手元から離れた銀の刃は力を失ったのか、銀色の液状へと還った。
「ブリジットォーーーッ!!」
  俺はようやく拳銃を乱射した。放たれる数十発の電気の塊。俺は先ほど違い、反動に耐え、数十cm程度引き下がる程度で済んだ。
 一方のブランは、やはりバリアで攻撃を弾かれてしまった。だが、全くの効果がなかったわけでもなかった。足に巻きつかれていた刃を振りほどこうとしながらバリアを張っていたため、ブランは数m手前で足止めすることに成功した。
「ミューナ!! お前はそらを連れて、今すぐ逃げろ!!」
「了解したのじゃ!! そらの身の安全は、妾に任せるのじゃ!!」
 そう言うと、ミューナは小さな体でそらを担ぎ、曲がり角へと消えた。これでミューナとそらの身は安全だ。それよりもブリジットを助けなけ……。
「貴方の相手は私ですわ!! ブラン・スノッシュ!!」
 俺が振り向いているうちに、ブリジットはいつの間にか復帰していた。
「ブリジット!!」
「……?」
 ブランは一瞥するが、全く相手にしないのか、すぐに俺のほうへと地鳴りを鳴らしながら歩み出た。
「怪我はないのか、ブリジット!?」
「ええ、あの程度の攻撃は魔法で防げますわ!!」
「そうか……。だったら、ブリジットは操舵室に向かってくれ!!」
「あ、貴方にこのデカブツを相手にするのは無理ですわ!!」
「いや、コイツの狙いは俺のようだ。だから、俺が何とかして時間を稼ぐ。ブリジットは、アクアリーフを止めてくれ!!」
「……」
 俺は拳銃を乱射しながら、ブリジットに忠告する。攻撃こそされないが、ブランは一歩一歩前進をする。このままでは、捕まってしまう。
「早く!!」
「わ、分かりましたわ……」
 ブリジットは理解したのか、すぐさまに先へと行った。
「これでここにいるのは、俺とお前の2人だけか。昨日は負けたが、今度は負けないからな」
「ブルルルゥ……」
 意味を理解したのか、ブランは鼻息を荒く鳴らした。
 そして、猛牛の如く、突進を仕掛けた!!
「うぉっ!?」
 俺は間一髪、曲がり角へと飛び込んだ。
 その直後、アクアリーフ内が地震に遭ったかのような衝撃が伝わった。俺は振り向いた。客室の壁がまるでトラックが突っ込んだかのように、跡形もなくなっていた。心中、ゾッとした。もし、タイミングが少し遅れていたならば、俺はミンチ肉なっていたに違いない。
 しかし、恐怖で竦んでいる場合ではなかった。壁にめり込んでいたブランの頭は、すぐに引き抜いて復帰した。距離にして、僅か5m。このままでは捕まってしまう。何とかしなければ。
 その時、思いもよらぬことが起きた。
「うわぁっ!?」
 俺とブランの間に、突然、多重素材構造の隔壁が降りたではないか!?
 これが謎の協力者の手助けというのか? もしくは、何かのトラブルか? とにかく今の俺には、天の助けそのものだった。
『ぐぉおおおおおぅっ!!』
 うなり声と共に、隔壁を叩きつける音が。その都度、頑丈な隔壁は歪み始める。それを見て、俺はここをすぐに離れないといけないことを理解し、その場を急いで離れた。
 俺は後ろを振り向くことなく走った。後ろを振り向くだけの余裕が無いからだ。ただ、俺が走るたびに、隔壁がぶち破られる音がして、その後に隔壁が落下する音だけが聞こえる。そして、通路のところどころには先回るかのように隔壁が既に降りていた。まるで、俺をどこかに誘導するかのようだ。もしかして、謎の協力者というのは罠なのだろうか? だが、考えたってどうにもならない。今、俺に出来ることは走って逃げることだ。
 何者かに導かれるままに導かれ、俺はひたすら走った。恐怖と焦りがただひたすらに募る。息が乱れる。心臓の鼓動が早くなる、足がほつれそうだ。どこまで逃げたら、あの野獣から逃げ切ることが出来るんだ? このままでは、いずれは追いつかれてしまう。
 その不安は、すぐに取り払われた。
「こ、ここに逃げろっていうのか!?」
 逃避行の終着点は、『世界の果実酒フェア実施中!! イヴローニュ』と書かれたポスター貼られた大型バーホールだった。
 本来ならば輝かしく賑やかしいバーホールだが、今は静寂に包まれ、灯りの一つ点いておらず、ゴーストタウンの酒場そのものだ。残しているのは、仄かに漂う酒の香りのみ。
 しかし、隠れるにはなかなかのお誂えの場所。キッチンに、バーカウンター、VIP専用の個室などなど……。遮蔽物も多いこともあってか、簡単に見つかることは無いだろう。
 俺は店内を一通り調べる暇もなく、最奥のバーカウンターへと逃げ込んだ。そこが安全かどうかは分からないが、とにかく一番気付かれにくそうな場所だと直感したからだ。
 息を整えつつ、狂える野獣に警戒する。今のあいつの状態からして、何を仕掛けてくる分からない。どうにかしてでも、この危機的状況を切り抜けないと。
 ガラスがぶち破られる音がした。どこからかブランが進入してきた証拠だ。
 地鳴りを鳴らしながら、ブランは暗がりの部屋内を歩き回る。音と振動は徐々に大きくなる。俺の心臓の鼓動がますます早くなる。この不安を少しでも払拭するために、ブランがどこにいるか位置確認をしなければ。
 恐る恐るバーカウンターから外を眺めた。テーブルや椅子を全く気にすることなどなく、蹴り飛ばしながらこちらへと向かってくる。しかしながら、視覚は完全に別の方向を向いている。もしかして、俺の存在に気付いていないというのか?
「この隙に部屋から抜け出して……」
 その時、部屋内から不吉な異音と振動が響いた。何が起きているかは分からない。ただ、何かを無理矢理剥ぎ取っている。それだけは理解できる。
 再び、俺はバーカウンターから覗き込んだ。そこで見たものは、あまりにも驚愕的なものだった。
「は、柱!?」
 なんと、ブランは部屋の一角を支えていた木製の柱を無理矢理剥ぎ取っていた。そして、ブランはそれをバーカウンターに向けて片手で投げたではないか!!
「ヤバイ!! 隠れないと!!」
 俺は柱が当たらないことを祈りつつ、屈んだ。こんなものが当たったらひとたまりも無い。
 柱はバーカウンター奥のボトル台に突き刺さり、ガラスとアルコールの雨が降ってきた。
 幸い、俺はガラスで皮膚を何ヶ所か切っただけで、命に関わるような傷を負っていなかった。もし、柱がバーカウンター内に投げ込まれていたら、一巻の終わりだった。
 心が萎縮した。オマケに軽い頭痛もしてきた。これでは逃げるどころか、とても戦うこともできない。あまりにも桁違いの敵だ。俺が相手にするにはあまりにも荷が重たすぎたのか? 素直にブリジットと共闘して、戦ったほうが安全だったのではないのだろうか?
「情けないですわ、夏目大和」
 突如、ヒステリックさを匂わせる少女の声が聞こえた。
「だ、誰だ!?」
 俺はゆっくりと見上げた。そこには、あの高飛車なブリジット・東雲がいた。
「ブリジット!! なんで、こんな所にいるんだよ!? もしかして、俺を助けに来たのか!? そんな場合じゃないだろ!!」
「貴方、それでも男なのかしら? それとも、私の見込み違いとでも言うのかしら?」
「な、何を言っているんだ? ブリジッ……」
 俺はブリジットの足に手を伸ばそうとした。しかし、空を切ってしまった。
「夏目大和、貴方はここで終わる男ではありませんわ。貴方ならば、この程度の逆境を覆すぐらいの力と知恵と勇気があるはずですわ」
 俺は、今ここにいるブリジットが何者であるかを理解した。
 幻だ。恐らくはアルコールを被って、軽く酔ってしまったのかもしれない。その影響で、ブリジットの幻が目の前に現れた。そんな単純なことだ。
「ははは、幻が説教か。俺もいよいよおかしくなってきたのかな?」
「あなたがどう思うのは勝手ですわ。でも、貴方以外にも一生懸命頑張っている人がいることを忘れないでくださる?」
 ブリジットの幻はビシッと指差しした。幻でも全く同じ行動をするなんて、よく出来た幻だ。
「デュトナ・サイベリアス、ミューナ・ミスティール・スコティッシィ、星野そら、ネクス、山田……。貴方は、皆の頑張りを無碍にすると言うのかしら? 任せるとか言った手前、諦めるのかしら? もし、そうだとしたら承知いたしませんわ!!」
「デュタ、ミューナ、そら、ネクス、山田……」
 俺は脳内で皆が何をしているのか、想像(イマジネーション)した。
 爆弾を解体しつつも、凶悪なテロリストやロボットと戦うデュタ。
 小さい身ながらも、意識を失ったそらを看病するミューナ。
 大勢の敵を誘い込み、囮役として八面六臂の活躍の戦いぶりを見せるネクスさんと山田さん。
 そして、邪悪な野望を打ち破るために操舵室へと向かったブリジット。
 皆が皆、弱音などを吐かずに戦っている。生き残るために、愛すべき東雲の町を守るために。
 それなのに、俺はそれを台無しにしようとしていた。ただの馬鹿者だ。
「そうだな……、俺のほうがどうかしていたな。こんなところでへこたれちゃあいけないのに、弱気になっていたなんて。俺らしくないな」
「それに気付けただけでも十分ですわ」
 ブリジットの幻は微笑んだ。それを見て、どこか心が救われた気がした。
「一度、あいつには負けたけど、今度こそは負けていられない」
「そして、あの男に見返してやるのですわ。地球人だって、アル・ビシニアンに負けていないことを」
「ああ。勝って、あいつにぎゃふんと言わせてやるよ」
「健闘祈りますわ」
 そう言うと、ブリジットの幻は本当に消えてしまった。
 時間にして、1分も経たずの出来事。それでも、萎縮した心を奮起させるのには十分だった。
「夏目大和、男を見せろ」
 俺は頬を叩き、気合を入れる。叩いた時の衝撃よりも、ガラスの切り傷が痛かった。でも、それは生きている証拠だ。
 気合を入れ直した俺は、バーカウンター内を物色をした。今持っている武器では到底敵いっこないが、何か武器になるものが見つかるはずだ。そうでなければ、俺の生き残る道が絶たれてしまう。
「甘露酒、梅酒、杏酒、シードル……。バーだけあって、酒ばっかりだな。しかも、果実酒ばっかり」
 しかし、俺はあることに気付いた。もしかして、このお酒が逆転の一手になるかもしれないことを。
 俺は必死に確かめた。きっとこんなにお酒が集まっているのだから、あるはずだ。
 それを見つけるのに、1分もかからなかった。
「これでどうにかなるかは分からん。でも、可能性としては十分に有り得る」
 俺はこの切り札に全賭け(オールイン)した。これで駄目なら、俺も諦めがつく。
 ただ、その前に準備をしなければ。確実に切り札が不発に終わってしまっては、泣くに泣けない。念には念を、石橋を叩いて渡る。そのくらいの丁寧さは必要だ。
「よし、これで準備が出来た。あとは勝負あるのみ!!」
 息を殺し、気配を消し、最高のタイミングをひたすら待つ。
 飢えた野獣は、獲物を嗅ぎ回る。巨人と思わせんばかりの足音を立てながら、恐怖と威圧を振りまきながら。
 だが、恐怖に動じることはなかった。ブリジットの幻に説教されたおかげで、揺るぎない勇気を手に入れた。あとは、俺が期待に応えるだけだ。
 ブランは再び柱を引き抜くために、部屋の角へと歩き始めた。あと少しだ、あと少し。
 案の定、ブランは柱を抜き始めた。俺の隠れているバーカウンターへと投げるために。投げられれば、今度こそ終わりだ。
 鉄製の巨大な柱を引き抜き、ゆっくりと振り向き、ブランはバーカウンターに向かって……。
「今だ!!」
 消音装置で聞こえぬ叫び声と共に、プラズマとつんざく轟音を帯びた光の槍が放たれた。壁に括りつけたプラズマ・ショックガンの発射だ。それもただの一撃ではない、最大出力の必殺の一撃だ。
「うぐうううううううぅっ!?」
 ブランはそのままの姿勢でバリアを正面に張った。それも以前のものとは違い、ブランの姿が正面から見えなくなるほどのバリアだ。恐らくは、相手も最大出力なのだろう。
 バチバチ迸るプラズマと火花。最大出力であるにもかかわらず、ブランの分厚いバリアに遮られ、打ち消される。流石はネコ耳宇宙人のエージェント。
 しかし、感心している暇など無い。俺はその隙を見計らい、俺は全速力でブランへと接近した。プラズマ・ショックガンに設定した30秒という制限時間以内に、次の一手が決まれば、ブランは無力化されるはずだ。希望的観測ではあるが、一番可能性のある作戦だ。
 倒れた椅子や破壊されたテーブル、床に転がるビール瓶を避けながら、射程距離へと接近した。この間、25秒。狙いを定めるのに、ギリギリの時間。
 同じ姿勢のまま、俺に目線を合わせる。その瞳は、憤怒とも、嵌められたとも言えない複雑な感情を表すものだった。
「これでも……、喰らえっ!!」
 俺は右手に持っていた酒瓶を投げつけた。
 クルクルと回りながら飛んでいく酒瓶をブランは避けることなどできなかった。
 酒瓶はブランの額に直撃し、粉々に割れ、瓶の中身をもろに被った。
 同時に、プラズマ・ショックガンの砲撃も止んだ。それを確認したブランも、バリアを解除した。
「貴様……、何を……」
「言えるか!!」
「貴様ぁ……!!」
 ぐらりと僅かに揺れるブランは、鉄柱を投げ飛ばす姿勢を取った。
 壁にも突き刺さるほどの超高速の鉄柱、とても避けられるものではないし、当たれば死そのものが待ち構えている。伸るか反るか、この瞬間に決まる。
「ぐぉおおおおおおおおおおおぅっ!!」
 野獣は巨体に籠められた有り余る力を鉄柱に注ぎ、吼え猛りながら投げ飛ばした。
 俺は目を瞑ることなどなかった。覚悟を決めているからだ。どのような結果が待ち構えていても、それを受け入れることを。やるだけのことをやったのだから、これで死んだとしても誰も恨まない。ちょっと痛いかもしれないけど。
 結末は、一瞬だった。
 野獣の投げた鉄柱、それは力なく地面に投げ落とされた。
「がっ!?」
 ブランは何が起きたのか、理解できていない様子だった。俺は、予想通りの展開になってくれたことをほくそ笑んだ。
「来い、ブラン!! 俺を殺したくて殺したくたまらないんだろ!!」
 俺は右手でクイと挑発した。何故、20世紀末に上映されたSF映画の主人公と同じものを取ったのか分からないが、反射的にこのポーズがカッコいいのだと判断したのかもしれない。
「この……、地球(セラン)人風情がああああああぁっ!!」
 ブランは両手を前にのめり出し、突進を仕掛けた。まるで巨象のような地響きを鳴らしながら。
 しかし、今のブランの突撃はキレやスピードなどいったものとは程遠いものだった。
 明後日の方向へ覚束ない足取りで突進し、そのまま椅子やテーブルへと突っ込んで、そのまま倒れてしまった。
「ば……かな……」
 さきほどまでぎらついていた野獣の眼光はもはや威厳を失い、にやけた口からはだらしなく涎を漏らし、床に突っ伏している。こんな情けない姿のブランを見たのは、初めてだ。きっと、これをブラン本人が見たら、恥ずかしさのあまりに飛び降り自殺でもするかもしれない。
 色々な意味で時間が無いというのに、じっくり見ている場合ではなかった。ブランの首筋に寄生している操甲虫とやらを潰してやらないと。
 俺は無力化したブランの背中に馬乗りとなり、首筋を調べる。
 案の定、虫の形をした小型のロボットがブランに寄生していた。こんなに小さいなロボットが、ここで倒れているデカブツを操っていたなんて。宇宙人の科学技術、改めて恐ろしいものだ。
 俺はブランの首筋に寄生する操甲虫を強引に引き剥がした。皮膚が引きちぎれる音が痛々しく聞こえ、とても直視出来なかったが、これで暴れることはない。
 操甲虫を床に叩きつけ、俺は念入りに何度も何度も踏み潰す。そして、何度踏みつけた分からないが、床に残されたのは鉄と機械の残骸だった。
「はぁはぁ……、はぁ――――っ」
 俺はそのまま力なくソファーへと腰掛けた。俺は投げて割れた瓶に目線を合わせた。今や割れて中身が何だったのか判別が難しいが、瓶のパッケージには『和歌山名物またたび酒』と書かれていた。
 猫はまたたびの匂いを嗅ぐと気持ちよさのあまりにぐったりするのは誰もが知っていること。ネコ耳宇宙人は、猫が人間のDNAによって人工的に進化した種族。だから、猫が大好きなまたたびが効果があるのではないかと考えた。
 ただ、またたびなんて簡単に見つかるものではない。見つかるものではないが、逃げた場所が幸運だった。店頭のポスターに書かれていたように、このバーホールでは世界の果実酒が取り揃えている。もしかしたらと酒棚を調べたら、またたび酒が見つかったというわけだ。
 バーホールに逃げ込んだこと、ブリジットの幻に勇気付けられたこと、アイデアを咄嗟に思いついたことと、本当にまたたびがネコ耳宇宙人に効果があったこと。どれか一つが欠けていたら、俺はオダブツしていたかもしれない。
「う……、ううぅ……」
 地鳴りのような低い呻き声が聞こえた。どうやら、あの男の意識が戻ったようだ。
「こ、ここはどこっすか……? 俺は何をしていたんすか……?」
「お前のせいで大迷惑だよ……」
「なっ!? 何故、あんたがいるんすか!?」
「とにかく時間が無いんだ、お前はお前のやることをやれ。俺が言えるのは、それだけだ」
 小休憩を終えた俺は、バーホールから去った。ヴァンは俺を呼び止めようとしたが、そんな余裕などなかった。

 どうでしたか、今回のカノゴクは?
 次回は、いつものように日曜日更新予定。ヴァンとの死闘に何とか勝利した大和。その一方、操舵室へと向かったブリジットだが、最大のピンチが降りかかっていた。そのピンチとは!?ブリジットの安否は!?それは見てのお楽しみにということで。